第13話:愛情の逸《はぐ》れ子
激闘の末、勝利を収めた僕は…陽泉を寝かせられる場所へと運び、みんなで看病をしていた…やり過ぎちゃったかな……反省。
窓から外を見ると、空はすっかり暗闇の中に入り込んでいた…。李凛は今日から、夏祭りで披露する舞の打ち合わせがあるので一旦席を外すことになった。
そして僕はというと…陽泉のことの反省としてなぜか料理当番………この家の女性陣は用事で出かけてるとかで、たぶん師範や李凛が自分で作るのが面倒だからだと思うけど。
同じ台所の僕の隣には不思議にも同じ役を買って出た未来ちゃんが…。ということで、永遠を1人残して看病室からみんなバラバラに散っちゃったわけだけど…。
「なんか楽しいねッ!」
なんだけわかんないけど未来ちゃんが笑顔で楽しんでくれてるだけ良いか…。
「それより、未来ちゃんが料理できるとは思わなかったよ…」
僕は素直な気持ちを言ってみた。するとその言葉に反応したのか、未来ちゃんはしゅんとしてしまった。
「月夜くん酷い…私、そんなに料理ができなさそうに見えるの…?」
「あぁッ、ごめんッ!別にそう言う意味で言ったんじゃないんだけど…」
いじけた子供のように唇をとがらせる彼女に、必死に謝ったがまだまだ拗ねてる…そんなにショックだったのかな………。
「私だってちゃんと家で作ってるんだもん」
「…そうなの?」
「家、お母さんいないの…」
「え…?」
(今サラッとめちゃめちゃ気まずいワードが流れてったような…)
「家のお母さんはずっとずっと前に病気で倒れてしまって…それ以来、ずっとお父さんと暮らしてるの」
「そ、そっか…大変だったんだね」
そうなんだ…僕は、どこか自分だけが家に1人取り残されてるように感じてた…。みんながみんなそれぞれの辛い出来事や哀しい宿命を背負ってるんだと改めて考えさせられた…。
僕は独りだ…。1年くらい前までずっとそんな言葉が脳裏に焼き付いていた…。自分だけがこの世界で孤立してると………。
ただ、違った。
自分だけじゃない…むしろみんながそばにいた。李凛や、陽泉や、永遠や、未来ちゃんまで…。いつの間にか…たくさんの人達が支えてくれてた。
僕はむしろ幸福な人生を歩んでる方だ…。
そう考え込んでいると…未来ちゃんが空気を読み取ったのか、慌てて謝罪してきた。
「ごッ!ごめんねッ!!私のせいでなんだか暗い話になっちゃって………」
「大丈夫だよ………それに、さっきまで僕が謝る方じゃなかったっけ?」
僕は彼女を励ますためにも自分で思う最高に優しい微笑みをかけてさしあげた。それに…さっきまで拗ねてた子が、急に謝りだしたのがなんだかおかしかった。
「ぁ…」と言いながら顔を紅くしてうつむく彼女を見ると、更に口元がゆるんでしまった…。未来ちゃんって、なんだかこういうところがあって癒される…。そんな言い方すると“萌えてる”って言われるのかな………。でもそうかも…恥ずかしいけど。
「ちょっと休もうか…」
料理の方はあらかた目処が立った…。でも李凛も来ないし、陽泉の方も目を覚ましたら永遠が報告にくるだろうし…ちょっと休んでも良さそうだった。
「うん、そうだね…」
未だ赤面しながらも、未来ちゃんと僕は台所にあるテーブルに隣合って腰掛けた。
「月夜くん…あの……さっきの試合だけど…」
未来ちゃんは不安そうな顔を浮かべて僕に語りかけてきた…。
「あれは、本気…だったんだよね…?」
なんだか疑わしげに聞いてきた未来ちゃんの瞳には、うっすらと輝くものがまとわれていた気がした…。
「本気じゃなければ、僕は陽泉に負けて…今頃は寝たままだったと思うよ……」
あの時の陽泉も本気だった。こちらも本気でかからないと負ける…。いやそれ以前に、本気で挑んでくる陽泉に手加減でもしたら失礼にあたる。
「なんで…あんなになるまで闘うの?試合って言ってしまえば確かにそうなんだけど…なんだか………」
「怖い?」
彼女は僕の問いかけにゆっくりうなずいた。確かにそうだろう…武力による闘いは彼女にとって縁遠い世界なのだから。そしてできれば、この子には…純粋な未来ちゃんには…あんなに相手を倒す覇気をまとった人間の姿を見せたくはなかった…。でも僕達は約束した。
「ただ…約束なんだよ、陽泉との………」
僕は口に出してもう一度言った。未来ちゃんは当然、そのことについて尋ねてきた。
「約束って…どんな?」
『どんな事情があっても…手加減だけはするなよ………』
それが陽泉の言葉だった…。僕への、そして自分への…。お互いに一撃を決めるときも絶対に一切手は抜かない、僕達の中での誓いだった。
「陽泉も僕も、ああなるかもしれないとは覚悟の上で闘ってる…。倒れたいわけじゃないけど、本気が出せないままなら、勝っても負けても後悔するだけだ…」
「そっか…なんか“男の友情”って感じで羨ましいな」
未来ちゃんはちょっと残念そうな目を浮かべていたが、最後の方ではいつも通りの微笑みを浮かべてくれた。
「そんなたいしたものじゃないよ…」
「でも、なんだか陽泉くんが羨ましい…だって、月夜くんとの間にこんなに固い絆があって、私が入る余地すらなさそうなんだもん」
…?どういう意味だろ…?入る余地?でもなんだか哀しそうな羨ましそうな目をしている未来ちゃんは…どことなく行き場所がわからなくなって泣いてるときのような子供の目に見えた。
「なに言ってるの、未来ちゃんのことだってみんなと同じくらい大切な仲間だと思うし、絆だってとっくに築いてると思うよ」
「ありがと…初めて会った時からなんだか不安に思ってたの……。この4人の間には私は邪魔者なんじゃないかッて………不安だったの」
彼女の手は震えていた…彼女の目からは涙が溢れていた…彼女の声はいつの間にか、すすり泣くような弱々しい声になっていた…。
どうしていいかわからない…。なんと声をかけていいかわからない…。
突然なことに戸惑ってしまった僕は、どうしようと焦りながらも、声よりも伝わるもの………体の温もりで答えた…。
“君の居場所はここだよ…もう不安な思いなんてさせないよ…ずっと、ここにいていいんだよ…”
そんな気持ちを込めて、僕は小さな声で泣き続けていた少女の体を、自分の体で優しく包み込んでいた。
こんな不安な気持ちだったんだ…ずっと震えていたんだ…居場所を探して彷徨ってたんだ…僕はそれにも気付いてあげられなかったんだ…
そんな思いが頭の中を駆け巡っているなか、僕は彼女の不安を一心に受け止めようと抱きしめ続けた…
もう…彼女が泣く姿は見たくない…そう思った…この気持ちは…なんなんだろう…………
予定からずれました…。これはこれでいいかなとも思いますけど、なんとなく物語の核心部分みたいになったのが想定外です…。
ただ…!月夜の心情が大きく揺れてきました!!ここからどうなってしまうのか…作者自身もわからなくなって参りましたぁッ!!(おいおい…)
とにかく乞う御期待………
*次回予告*
前回の次回予告はいかされずどうもすみません…。ですが、次からはいよいよ夏休みへ!!(行くといいなぁ、なんて…考えてますけど)
評価、感想、賛否両論のコメントお待ちしております!!