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第10話:脱衣所のお約束

 お泊まり会として永遠と家に来ていた僕は、正直あまり寝付けなかった。そして陽泉がいつの間にか僕の隣の布団から姿を消していることに気付いた僕は、風呂に入っているのだろう…と考えていた。


 このまま横になってても、どうせ寝付けないだろうな…と思っていた僕は、バスルームにいるであろう陽泉に上がったら僕に伝えるよう頼もうと、バスルームへ向かった。


 僕達が泊まっている部屋は2階だ。1つ部屋を挟んだ隣に、女子3人が眠る永遠の部屋がある。階段を下りて1階のバスルームへ向かうには、その部屋の前を通って階段を下りなければ行けない。


 何の気も無しに永遠の部屋の前を通っても、何の音もしない…。


(もう寝てるだろうな。たしか未来ちゃんももう寝ちゃってるはずだし、うるさくはできないだろうからなぁ……)


 そう思いながら階段を下りていく。そして、バスルームの前に立った頃にはドアと壁のほんの数ミリの隙間から明かりが漏れているのがわかった…。


(やっぱり陽泉が入ってたんだ……そうなら今もまだ湯船の中だろうし、開けて呼びかけた方がいいか……)


 風呂場と廊下は脱衣所を挟んでいるため、廊下から声を出しても届かない。そう思って僕は軽くノックをした。


「陽泉、上がったら僕に教え…………」


 そう言いながらドアを開けると、そこには人影が……。


 僕よりも身長が少し大きい人物の姿は……無い、むしろ小さい。そして僕がいつも見ている少し毛先が遊んでるいかにもからかい屋にぴったりなチャラチャラヘアーも…無い、むしろ腰まで伸びるつややかな黒髪……。そして剣術で鍛えたごつい腕の筋肉も…無い、むしろ白く細くなめらかな細腕だ……。


(…ッて待てよ?そしたらこの人は…………)


 そこに後ろ姿で立っていたのは…………未来ちゃんだった…。


 今の僕がそうであるように未来ちゃんも目を丸くしながらも、ゆっくりと確かめるように僕の目を見てきた。めちゃめちゃ目が合ってる……。


 ほんの2・3秒の沈黙の後、僕は慌てて廊下に出てドアを閉め、ドアに背中を合わせて詫びた。


「ごッ、ごめんなさいッッッ!!し、ししし…知らなくてッ!未来ちゃんが入ってるなんてぼ、ぼぼぼ、僕…知らなくてッッッ!!!!」


 ヤバイ…どうしよう、のぞきみたいな感じになってるッ!!顔が紅い…ううんッ!そんなこと気にしてる場合じゃないッッッ!!!!…でもタオルは体に巻いてたし……いや、見たのかもしれないけど…でもどのみち関係ないよねッ!?どうしようどうしようどうしようどうしよう……!!!!


 そうあたふたしてると、脱衣所の中から静かな声がした…。


「つ、月夜くん…。だ、だだ大丈夫だから……。ちょっと…話したいから…居間で待っててくれるかな…」


「わ……わかった…」


 そう言って、指示に従うように僕は居間へと足を運んだ。上手く足を運べない…。




 僕が居間のソファーで顔から熱を出して待っていると……未来ちゃんが現れた。淡いオレンジ色のパジャマを着て……なんだかその色とは異なる濃すぎるくらいの紅い表情を浮かべて……。


 そして、未来ちゃんはソファーの僕の隣に、ちょこんとうつむきながら座った…。


 …………沈黙…………


 すご〜く長いこと気まずい雰囲気が漂っていた……。


「「あのッ!!」」


 …とっさに話を切り出そうとした言葉も2人で打ち消し合ってしまう始末…………。


「あの……ッさ…」


 未来ちゃんが言ってきた。それに僕は答える…。


「な、何かな…?」


 声がうわずりながらも動揺を抑えて僕は答えた。


「あの……ありがとね…」


「な…何が……?」


 感謝……?のぞき疑惑の追及や非難の言葉なら(ありがたくないものの)まだわかるけど…。意味不明の感謝にまだ焦る気持ちを抑え、その言葉の真相を探ってみた。


「だって…この歓迎会開いてくれたのって月夜くんの一言があったからでしょ…?」


 そう言えばそうだ……。あの時は照れ隠しに必死だったけど…喜んでもらえて良かった。僕もいろいろ大変だったけど楽しかったし…。


「僕はそんな…ただ未来ちゃんを楽しく迎えられればなって思っただけだよ」


「うん…だから嬉しいの。月夜くんが私のことを考えてくれてるってわかるから……。だから………な、な〜んてッ……」


 未来ちゃんはゆっくり、1言1言をかみしめるように言った後、ちょっぴりおどけて見せた…。でも顔はごまかせないようで、彼女は終始顔を赤らめていた……。


「み、未来ちゃん………」


 僕はほぼ何も考えることができずに、気がついたら彼女の名前を呼んでしまっていた……。だって、自分の恥ずかしいという感情を悟られまいと必死に隠して、明るく振る舞って…でも結局は相手に気付かれてしまう……。


 かわいいと思った…。心の底から素直に……。相手を目の前にしていつも楽しく振る舞おうという健気けなげな気持ち………。その気持ちに…きっと引き込まれたんだろうな………。


「あの時もそうだったね…」


「え…?」


 未来ちゃんの言葉に僕はなんだかわからなくて問い返した。


「私と初めて会った時のこと……覚えてる?」


「あぁ…あの時は、夕暮れの海辺で……ちょうど昨日みたいな感じだったね」


 そう、1年前の夏休み明け、僕達は出逢った…。




 彼女は、夕暮れ時の海辺で、ただただ波打ち際に突っ立っていた…。僕は李凛、陽泉、永遠と海に遊びに行った帰りだったが、1人群れから外れていつの間にか彼女の背後まで近寄ってしまっていた…。その時はなんだか、まるで彼女が…見たことも会ったこともない彼女が…僕を呼んでるような気がして………。


「何、してるの…?」


 第一声はたしかそんな感じだった。つい最近…昨日も言ったっけ。ホントに成長ないな僕…。でも昨日と違うのは……。たたずむ君の頬に流れる一筋の光…君の涙だった。


(泣い、てる……?)


 そう思ってちょっぴり焦っちゃったけど…彼女は口を開いた。


「海を見ていたんです…ちょうどこの時間だと思って……」


 海に沈む夕陽を、彼女は優しく微笑んで見つめていた…。それから僕は、その海辺にたたずむ少女を、みんなに紹介した。陽泉や李凛からは当然のごとく、ナンパ成功かなんてからかわれたけど…。




「あの日があって…月夜くんに出会えて…今の私がいる……。月夜くんに出逢えて良かった…私はずっとそう思ってるんだよ…。月夜くんは恩人だって……」


「そんなんじゃないって…。僕は…ただ……未来ちゃんが寂しげに見えたから…だから、こんなお節介しちゃって良かったのかなってたまに思っちゃったりもするんだ」


「ううん、その気持ちが嬉しい…。ありがと……」


 そのころになると、僕の心はすっかり落ち着いていた。彼女にはいつも癒される…。取り乱したり慌てたりした時に落ち着かせてくれる温かさを持っている…。そんなところが周囲の人を惹きつける力になるのかもしれない。




 そんな気持ちにもなると眠くなるもので……。僕と未来ちゃんはそのまま意識を心の底まで落としていった…。結局陽泉失踪の真実は、『ただ風にあたりたかったから外出てた…』だそうだ……。


 僕たちの寝てる姿を李凛が言うには、僕の肩に未来ちゃんの頭がきれいに乗っかっていい感じだったそうだけど……それを聞いた僕と未来ちゃんはまた顔を真っ赤にしてうつむくばかりだった…………。





やっと歓迎会編を終えました…。詰め込みすぎて4話またぎになっちゃいましたね。…ということで次回から新章スタートです!そろそろこの物語の本質的な部分に触れていきたいと思います…。(遅…)


夢の謎、いろいろなことをこれから明らかにしていくつもりなのでご期待下さいぁ。


*次回予告*

夏休み前テスト目前!!…ということで月夜の家で勉強会が行われることに。

そして総合学習の夏休みの宿題に苦戦する一同に未来の出した提案とは!?


感想や評価、辛口コメントに至るまでどんどん募集中です!!待ってますよッ!!(いつまでも…)

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