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f値小さく、そこに写されたもの  作者: 未月かなた
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リョートの過去

ルコの講義が終わり、設置されていたルコが書いた著書にサインをして渡すはずだった企画が、本人の体調不良により中止となった事を、館内アナウンスがそれを知らせていた。

「リョート、来てたの?」

会場を後にし、ロビーで後ろから声をかけられ、リョートは振り向いた。

「ユリカ。そっちも来てたんだな?」

普段は一つにまとめている長い髪をおろし、パンツスーツ姿のユリカは、リョートと並ぶジーニアスのルコを見た。

「ちょっと、少し話せる? あなた、これつけて」

ユリカは、エナメルのカバンからマスクを取り出し、それをジーニアスのルコに差し出した。

「リョート、かなり大胆な事してるわね? 変装とまでは言わないけど、少し考えなさいよ」

ユリカは険しい表情をして、強い口調でリョートに言った。

渡されたマスクをルコは付け、ユリカは2人を連れ出し、近くのカフェに入った。

「カフェオレ2つでよろしいですか? そちらのお客様は?」

「私は、いいんです」

店員に聞かれたが、ジーニアスのルコは右手をヒラヒラとさせて、オーダーを断った。

「で? 説明してもらえる? どうして、ルコの講義に来てたの? それと、そちらのジーニアスはどうして作られたの?」

冷ややかな視線を、テーブルを挟んだ2人にぶつけ、ユリカはリョートに問いただした。

「リョート、自分の立場分かってるの? あなたは、ルコに会う事を禁止されているのよ?」

「分かってる…。講義なら、大勢の中だから良いかと思った。禁止されている事が分かっていても、自分の気持ちが抑えられなかった。ルコが俺を見つけた瞬間の、ルコの顔を見て、俺の身体に電気が走る様な快感を味わえた」

不気味な笑みを浮かべたリョートを見て、ユリカは大きく溜息を吐き、苛立つ感情を抑えていた。

「自分の欲求を満たすためにに、研究を利用してそれを作ったのかしら? あなた知ってるの? 本物のルコが隣に座っている男に何をされたのか?」

じっとユリカを見つめるジーニアスのルコは、無表情のまま横に首を振り、

「いえ、知りません。初期化の時点で、私のデータにはリョートさんはいませんでしたから」

ジーニアスのルコの答えに、ユリカの顔から怒りが見えていた。

「そこまでして…。ルコのキヲクシステムを使って、自分のデータ箇所を全て消してしまえば良いって事ね。この男はね…」

「ユリカ、やめろ!」

リョートがユリカの言葉を遮り、ユリカをじろりと睨みつけた。それに反論するかの様にユリカも、怒りが抑えきれずに、口火を切った。

「狂ってるわ。ここまでして、ルコと居たいだなんて。でも、残念ね。ジーニアスは所詮、人間の模造品。機械に過ぎないから、リョートにレイプされる事はないわね」

「ユリカっ!!」

リョートは大きな声と、テーブルを両手でバンっと、叩いてユリカの言動を抑制させた。周囲に居た客や店員達が一瞬静まり返り、リョートを見ていた。



講堂からすぐにタクシーで帰宅したルコは、ソファーに寝転ぶと、身体を赤子の様に縮こませて震える恐怖感を抑えていた。

ルコが、大学に入学して間もない頃だった。

リョートとは学科も異なり、サークルすら別だったが、唯一同じ講義を取っている時間があった。

講義の後、リョートはルコに声をかけ、お茶に誘った。ルコは軽い気持ちで、リョートの誘いに乗り、2人でカフェで話をした。陽が薄暗くなり、カフェで2人は別れたが、リョートはルコの後をつけ、人気のない路地で引き止め、ルコをレイプした。

すぐに、通りすがりの人が通報し、リョートは警察に捕まった。

それ以来、リョートはルコへの接近を禁止されていた。それでも、変わることのない揺るぎないルコへの想いは、同じ大学にいるリョートの、遠くから感じる視線で、ルコは嫌でも感じていた。

今でも、自分への戒めなのか、時々あの時の事が夢に現れる。

当てつけの思いで、元夫との結婚式へリョートを呼び、諦めてもらえるかと思っていたが、ユリカからはあまり効果はないようだと、後から教えてもらい、気狂いしそうなほど、見えない狂気的なリョートの感情に苦しんでいた。

「彼の隣にいた人、とても私に似ていた…あれは、何だったの?」

ルコは、テレビのモニターをつけると、ユリカに連絡をした。

「ルコ、大丈夫? 私、今日、講義行ってたんだ。あいつ…」

モニターに映し出されたユリカの顔を見て、ルコは安堵したのか、急に涙を流しモニターに近づいた。

「ユリカ! あの人がっ!! あの人が、来てたのっ!! それに、隣にとても私に似た人が座ってた。ヤダ、もう…怖いよ」

会話の後、ユリカはルコの部屋に来ると言い、ルコはそれを待ちわびた。


ユリカが到着すると、部屋着に着替えたユリカが出迎え、ルコは不安のあまり、ユリカに抱きついた。

「ユリカ、私、怖い。あの人が、この世からいなくなればいいってさえ、思うことがある」

ユリカの胸で泣きながら、ルコは胸の内を吐いた。

「とにかく、座ろう。大丈夫。私がいるからね」

ソファーにルコを座らせ、ユリカはその向かい合わせになるように、カーペットの上に座った。

「さっき、会ってたんだよ。講堂で私もあいつを見つけて。問い詰めてた」

「あの、女の人は?」

ルコが恐る恐る、ユリカに尋ねた。

「…あいつの研究対象として、造られた人型のAI」

「どうしてっ!! どうして、よりによって、私がモデルなのっ!! あの人が、私のロボットと一緒にいて、何をしてるか…ゾッとするわ。ねぇ、ユリカから、それ辞めさせられないの?」

「ごめん。それは出来ないの。上が指示を出した事だから。モデル人選は、リョートがしたのは間違いないと思うけれど…」

「あの人、狂ってるわ。もう、ホント、死んでしまえばいいのにっ!!」

ルコは、両手で顔を覆い、 泣き叫んだ。

「ルコ…」

ユリカは、それ以上何も言わずに、ルコが泣き止み落ち着くまで側にいた。



お読みいただき、ありがとうございました。

リョートがルコにした事が、明らかになりました。

お話はまだまだ、続きます。

どうぞよろしくお願いいたします。

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