偽りの創造物
ヒューマンシステムのメインである、キヲクシステムの管理エリアからは、遠く離れた建物の奥、故障品保管室と書かれた部屋に、リョートと共同研究している、NO.153チームの研究室があった。
ここには、リョートの他は全て、ジーニアスがおよそ15機。人型ではない、人工知能機能の物も含めると、ジーニアス本体を製造過程も含め、10機程の機械を囲み作成に至った。
「今どの辺りまで進んでいる?」
リョートが男性の研究者に声をかけた。まるで、人がモニター上でプログラミングをしてるかのようだったが、彼はジーニアスの1人だった。
「今、人間の基本動作のデータを転送しています」
「リョートさん、彼女に埋め込むキヲクシステムは?」
研究員の女性の姿をしたジーニアスがリョートに近づき、声をかけた。
「リョートさん、こちらが、試験モデルのジーニアスに導入する住民リストNO.1000477980のキヲクシステムのデータのコピーです」
女性ジーニアスの手の、小さなマイクロチップをリョートは受け取った。
「この研究が進めば、私たちにもカンヂョウやキヲクのある、より人間に近づいたジーニアスになります」
女性のジーニアスが無表情のままではあったが、そう言った。しかし、声のトーンや弾み具合からは既に喜びの感情を習得していることが、先日の研究データで発表されていた。彼らは、データを習得するごとに、感情に対する進化をしていた。
サブで起動している大きなモニターの前に座ると、そのマイクロチップのデータの作業にリョートは取り掛かった。データは、無数のプログラミングがモニターいっぱいに字列していた。
リョートはそこから、ルコの一部のデータを消去した。さらに、胸ポケットに忍ばせていた研究段階のカンヂョウシステムのデータを導入し始めた。
「試験的ではあることは、分かってる。リスクは伴うが、これは俺の為、ルコの為なんだ」
リョートは小さく呟きながら、手を休めることなく、プログラミングのデータを打ち込んでいた。
窓のない部屋だったが、日照時間を知らせるシステムが起動し、部屋の片隅がほんのりと光を放っていた。
「徹夜になったが、基本データの改ざん、カンヂョウシステムの導入することができそうだ」
「あと、36時間後に起動予定」
複数あるモニターの一部から、音声が聞こえた。
室内の中央には、一体の女性の身体をしたジーニアスが、強化ガラスで作られた、棺の中に横たわっていた。リアルな、裸体の姿は、髪の毛や爪、肌の質感からしてほぼ人間に近いものだった。
それは、身長、体重、顔のパーツ全て、さらには髪質や指紋までが、雅ルコを忠実に創り上げていた。
「もうすぐ、俺のルコに会えるんだ」
リョートは棺の中のルコを見つめると、口角を微かに上げ、愛おしむ眼差しでそれを見つめていた。
お読み頂き有難うございました。
リョートの狂気的な感覚が今後、開花していきます。これからも、良ければお話にお付き合いください。