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f値小さく、そこに写されたもの  作者: 未月かなた
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最愛の人

リョートは、嫌な夢を見て目が覚めた。

ルコの夢だった。

感覚で例えるならば、ざらりとした嫌な感覚だった。

ルコが自分の目の前で他の男と、セックスをしていた。男は自分の知らない男だった。

ルコが、快楽に喜んでいるその姿を、リョートはただ黙って見ているだけだった。欲情するもなく、ただただ、リョートはそれを傍観しているだけだった。

夢の中でさえも、ルコは自分のものにはならない。不満足感は、煙が立つような苛立ちで、胸の中に込み上げていた。

リョートは、自分でも取り返しのつかないほど、自分の想いがルコによって埋め尽くされている、狂気的な想いだと理解していた。


ルコへの想いは、一目惚れから始まった。

高校受験の時に、消しゴムを忘れてしまったルコに、隣の席だったリョートは消しゴムを半分にして、ルコに差し出した。

「ありがとうございます」

ルコは、ぱあっと柔らかい笑顔を見せ、リョートに言った。勉強ばかりに気を取られていた1人の少年が、この時初めて恋に落ちたのだった。リョートの中で、ルコが見せてくれた笑顔がデータ保存されたように鮮明に記憶されていた。と、同時に高鳴るような胸の鼓動と、微かに締め付けられるような苦しさが身体に走った。


入学して同じ高校に入ったが、ルコとは同じクラスになれず、ルコはリョートの存在すら忘れていた。リョートが初めてルコに告白をした時に、やっと思い出し、その時の例は言ってくれたが、告白は見事に玉砕だった。

高校生の間に、2回リョートはルコに告白をしていた。入学して間も無くと、卒業の時だった。大学も、本来ならばトップクラスの大学へ入れる力を持っていたが、教師や親に反対されても、ルコと同じ大学へと進学したのだった。

大学に入り、ルコはサークルで知り合った、3つ年上の男と付き合った。それは、卒業するまで続くどころか、結婚までしたのだった。


ルコを好きだと言う想いは、年月が経つにつれそれは募り、より一層深くなっていった。見た夢の行いでさえも、許せる事ができるんだと、リョートは思っていた。

ただ、ざらりとした感覚が目が覚めても残り続けていた。


寝室からリビングへ向かうと、テレビモニターの青いランプがチカチカと受信の知らせをしていた。電源を入れ、部屋がモニターの光で明るくなった。

受信していた物を確認すると、SNSの投稿のようだった。

「こんな時間に更新している奴がいるのか?」

目が覚めてしまったついでに、リョートはそれを確認しようとモニター画面の前に立ち、両手を動かし画面を操作した。投稿者は、仕事の関係者らしく、製造会社の開発者だった。彼の投稿には何枚か写真が添付されていた。何処かの教会のような場所。

“友人の離婚式に参列した。晴々とした気持ちなのは、皆んなが笑顔だったからだ。彼も、元奥様も、これからの新しい人生に向けて、前進されている”

フォーマルな服装の彼は、タキシード姿の男と一緒に写っていた。その端に写る、黒いドレスを着た女に気がつき、リョートは写真を拡大するように、両手でそれを広げる動作を取った。

「ルコ、離婚したのか…」

ルコの姿がモニターの一面に大きく写し出された。柔らかく笑んだ表情、長い睫毛、頬骨に沿って膨らんだ頬。陶器のような白い肌。まるで、目の前にルコがいるかのようだと、リョートは胸を締め付けられるようだった。

肩を出した黒いドレスに、ふわりとした長い髪。白い薔薇の花は、式で必ず使われると言われているが、それがルコの姿にはとても似合っていた。真っ赤なリップは、薄い唇には少し浮いて見えた。元夫となった男は、真っ白い歯を見せ満面の笑みだった。リョートは男をモニター越しに睨みつけ、再び視線をルコに戻した。

「もうすぐだから…」

リョートは、呟きモニター越しのルコにとても穏やかに微笑みかけた。

お読み頂き有難うございます。

話はまだ続きます。

次回もどうぞよろしくお願いいたします。

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