第1話:オークション
目が覚めたその時はベッドの上に寝かされていた。
少年が運んでくれたのだろう、あの小さな体格でよく運べたものだと涙は傷口を見つめた。
体中に出来た傷は包帯などで処置してある。
自分が守らないといけないのに守られているなんて…少し自分自身に腹が立った。
周りを見渡してみると、見覚えがある部屋。
嫌なほど覚えている、【契約をした部屋】だった。
ここで全てが始まり、少年を守ると誓った場所。
自分の未来が動き出したのもここからなのかもしれない。
トントン
「入るよ」
ドアを開くのと同時に、パンや果物をたくさん抱えている少年が見えた。
「涙起きたんだね、これ食べて」
「さすがにこんなには食べれないな」
「師匠が涙はこんぐらい食べないと、体が保たないって」
今回のことについての嫌味だろう。
あと少しで、少年に被害が及ぶところだった。
本当に守りきれるのか?たまにそんな言葉が涙の心の中でぐるぐる回っている。
昨日は涙が油断をしていた、あんなに強い殺し屋がこんな森の奥までくるなんて。
それだけこの少年の価値が上がってきているのだろう。
涙は少年が持っているパンを一つ取り食べ始めた。
力が足りない、このままでは少年にまたあの苦痛の日々を送らせてしまう。
「そういや、俺の名前決めてくれた?」
少年には名が無かった、いや、正確にはあったのにはあったのだがオークションで賭けられていた時の名前だ。
少年の顔はととのい、そしてその目は赤く妖怪とのハーフが売りとして出されていた。
涙はその時依頼で、その少年を始末する予定であったのだが、それが出来なくなった。
丁度あれは涙が殺し屋として数を積み始めた時のことだ。
あの頃は、言われた命令に忠実に動くしか出来ない立場
「涙、アレがターゲットだ」
檻の中に首に鎖をつけられ、服とは言えない布をまとっていた。
その頃の涙の感情は決して今のようなものでは無い。
守りたいなど思わなかったし、ターゲットとしか思えなかった。
人ごみの中で晒されている少年の瞳には無しか映ってない。 涙はまわりの大勢の人が金を握りしめ、冷たい目で見つめていることに対して吐き気がした。