03 wではなく三点リーダーなのがミソです
物語の説得力と作品の評価は、必ずしも比例しません。
ツッコミどころがある作品でも、評価はされる場合があります。
前項で説得力について語りました。
こづかいアップでも週末の予定でも会社のセールスでもなんでもいいですけど、現実で説得・交渉する場面を想像すると、メールや手紙で説得する場面を想像する人、少ないのではないでしょうか?
面と向かって、少なくとも電話で、話し合う場面を想像したのでは?
文章で説得が不可能というわけではないですが、やはり難しいのです。
面と向かった時の、語調であったり、表情であったり、相手との距離間であったり。『雰囲気』というファクターは大きいです。
小説では、文章で説得するしかありません。
それでも尚、そういった『雰囲気』を持つ作品はあります。
この『雰囲気』が没入感です。
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数字が小さいほど完成度が高い物語として並べると、こうなります。
①ツッコミどころのない面白い作品
②ツッコミどころがあっても面白い作品
(超えられない壁)
③ツッコミどころがあるつまらない作品
④ツッコミどころがないつまらない作品
誰もツッコめない完璧な作品が面白ければ、それに越したことはありません。前項までで述べている『リアリティのある作品』は、おおよそ①の話です。
しかし実際には、説明とかぞんざいでも、物語に勢いがあれば、読者は細かいことを気にせずに読んでくれるものです。
少年・少女向けマンガなんておおよそ、ツッコミどころのオンパレードですよ。
アクションマンガよ。後付け設定で連載当初と趣旨が変わってないかい? エセ理論にしてもそれは無理ないかい? あとなんか武闘会好きだね?
恋愛マンガよ。どうしてそう都合よく事態やキャラの心理が変わるのだい? そもそも主人公さんよ? もうちょっと賢くなれ? おバカキャラを持て囃すのは同レベルのバカだぞ?
そんなツッコミどころがあっても、ヒットしている作品はいくらでもあります。
それらの作品は、②のカテゴリーに含まれます。
傾向としてはギャグマンガと同じです。「ありえねーwwww」と草生やしながら楽しめるのです。
昨今は『ご都合主義』という言葉も、悪意あるものとして捉えない人が多いです。『お約束』と捉えてスルーするします。
これが没入感、とします。臨場感と言い換えてもいいかもしれませんが。
とにかく理屈抜きで作品世界に浸りこめること。
リアリティを語る上で、これは絶対に外せない要素です。
「ありえねーwwwww」と笑って流せるなら、その作品にリアリティは『ある』のです。
『リアリティ=現実感・真実味=リアル』と考えていると、ここを理解することができません。
そして『リアリティがない』と批難されるのは、③のカテゴリーに含まれる作品です。
没入感があれば、リアリティが云々なんて、読者はどうでもいいのです。
でも「ありえねー……」とツッコミが入るということは、作品に没入感がないってことです。
本質的には、リアリティの有無が問われているわけではないのです。
『面白くない』とダメ出しされてるだけです。
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じゃあ、没入感とはなんなのか、どうすれば作品に盛り込めるかという話になるかと思いますが。
ここで語っても仕方ないことなので、省きます。
あえていうなら、流行とか、普遍性とか、そういうテーマになるのでしょうが、作家ならプロでも素人でも誰しも頭を悩ませることです。
要は「売れる作品はなにか?」と「作家のスタンス」の話ですから。
また説得の話に戻ります。
面と向かって説得する時、どういう語調で話せばいいか、どういう表情で語ればいいか、どのくらいの距離感を作ればいいのか。
ある程度の傾向はありますが、絶対の正解は存在しません。
相手によるところが大きいですから。
効く語調、表情、距離感が個人個人で異なります。
そこで「俺のやり方はこうだ!」と己を貫き通すのは、無能の営業マンです。
やり手は相手によってやり方を選択・調整し、カスタマイズします。
一対一で面と向かっての説得ならカスタマイズが可能ですが、一対多数で作者が発信してから読者が読むまで時間差のある小説だと不可能です。
だから作者ひとりひとりが、自分なりの答えを見つけるより他ありません。
少数でも根強いファンを取り入れる作品作りをするのか。
すぐに忘れ去れても幅広い人に受け入れられる作品作りをするのか。
読者のことは二の次で自分の好みをひたすら貫くのか。
その辺りは作家の自由と選択です。