2.進まぬ状況
突然、知らない場所へ現れて、数分のパニックに陥り…それで現在。
「………誰かー、誰か居ない?」
…声を上げながら、石畳の道に足音を響かせる。
視界の端へ、ゆっくり建物が消えていくけれど、声を返すことは無い。
どうしてこんなことをしているかと言えば、ただ単に、一人だと不安だったって事がある。
誰かここを知っている人はいないのか、そんな願いを心に秘めながら、呼びかけ続けるけれど…
「駄目…かなぁ…」
そう呟いてしまう。
…ボクの声、こんなに震えてたっけ。
「何のうめき声…いや、声か?…流石にここを選ぶのは失敗だったな、金目のものなんぞまるで見当たらない」
遠くから聞こえる、意味の分からぬ声に警戒を固めながら、私は廃墟探索を続ける。
…アンデッドにしては活動が始まる時刻が、早いが…
あぁ駄目だ、夕暮れの端に星が見えて来た。
ひっくり返した瓦礫を倒しながら、空を見上げる。
「……引き上げるべきか」
そう呟く彼は、此処では冒険者と呼ばれる存在だ。
魔術と剣技の両方を会得しており、年季の入った武具を身に着け、
青く長い髪を揺らす長身の彼がここに居る理由、それは単純な廃墟探索。
夜にはアンデッドの闊歩するこの廃墟は近場では有名であり、安全な時間帯に金目の物…遠い昔の住民の遺物を回収する。
今回は、ある腕輪の回収を依頼されていた。
この廃墟以外でも産出されたという情報はあったが…近いからと、怠けた結果がこの収穫0である。
依頼品以外の取り分もありはしない。
「む…」
さて引き上げようと、振り向き数歩進んだ時。
視界の先で虚空が揺らめき、人型を取り始めた。
「ゴーストか?」
ゾンビやスケルトンならまだ良かったのだが…などと言う願望も意味無し。
アンデッドへも有効な魔術などと言う貴重なものは、当然心得てはいない。
そう思案する内に人型は青白い色を持ち、こちらに怨みを込めた視線を向けた。
…それより、もうアンデッドが起き出す時刻か…目の前のゴースト含め、急いで駆け抜けるしかない。
「…この状況ですすり泣くなんて…情けない…」
適当に入った建物の中、部屋の隅に蹲りながら目元を拭う。
…多分、ちょっと赤くなってるんだろうなぁ…
そう思いながら、改めて部屋の中を見回した時、外がもう大分暗い事に気が付いた。
部屋の中にはボロボロの机に椅子くらいしか見受けられなくて、この辺りに本当に、人は居るのだろうかと不安になってしまう。
何処かに穴でも開いているんだろうか、風が冷たくて、何度か身を震わせていた。
あぁ、泣き疲れちゃったのかな…段々…眠く…
瞼に眠気がのしかかる。
雪山で寝たら死ぬって言うし、此処は寒いけど…此処は山ではなさそうだから、大丈夫…だよね?
そう考えていたけれど
───ふいに部屋の中に影が差した時、そんな眠気と考えは吹き飛んだ。