1.無伝招待
───生きているとは、何なんだろう。
友人と話をする?幸せを掴む?何かを探す?夢を追う?
一瞬考えるだけでも幾つか浮かぶ。
…だけれど、ボクの疑問はそうじゃない。
ボクはただ…生きている実感を、知らなかった。
目深にフードを被り、手元のスマートフォンを覗き込みながら、騒がしい商店街で歩を進める。
「…まだかな、目的地」
すっかり夕暮れとなった景色をチラリと覗くと、ボクはそう呟く。
今やっているのは、俗に言う”おつかい”。
特別商品を買ってこいだとかなんとやら……母親が、ボクを見上げながら押し付けて来た。
「って言うかこの時期にチョコレートって、誰に渡すのさ、あの人…」
父親は、ボクが今の高校に上がる前に、病で命を失っている。
あの時は悲しかったな…って違う、それだから、渡す相手が居ない筈なのだ。
「いや、まさか再婚…無いか」
…なんてことを考えた時、突然、スマートフォンが仕事をしなくなった。
地図は位置をまるで示さず、試しにネットを開こうにも、まるで返事をしない。
困ったな、地図を見ないとすぐに迷ってしまうのに…
なんて呑気な考えは、次の瞬間に吹き飛んだ。
膜のような何かが、身体を包んで通り過ぎる感触。
違和感を感じて、流石に顔を上げた時
「……えっ?」
…さっきまで、視界の端に映っていたはずの景色とは、全く違う。
石造りの建物が、黄昏色に染まりながら、視界の両脇へ立ち並ぶ。
所どころ損傷や、大きく崩れた場所が見える、その場所は…廃墟と形容するのに相応しかった。
前兆も出来事も無い、予測不能で唐突な…別世界への招待である。