悪魔ちゃんの物語 後編
「················」
私は呆気にとられていた。でも、秋君の言葉は思っているよりすんなり理解できた。
·············だからかな。
「私も·······。私もだよ!私も、秋君が好きなの!!」
気づいたときにはもう、勢いでそう言っちゃってたんだ。
秋君の表情に笑顔が広がる。ほっとしたみたいな、安心感の笑顔。
秋君は、私の方にむかって手を伸ばしてきた。
···············その時だった。
「離してよっ!!捜索届け、出すの!!」
ヒステリックな叫び声を上げながら、女の人が近くの家から飛び出してきた。40代後半ぐらいに見える。
「落ち着きなさい。もうじき帰ってくるだろう。」
女の人の腕をつかみ、懸命になだめているのは、女の人と同じ年齢ぐらいの男の人。
「あんまりにも遅いじゃない!!メールの1つもよこさずに、ここまで遅くなるなんて、何かあったに決まってるわ!!」
「お母さんっ、お父さんっ!お姉ちゃんのスマホ発見したよ!お姉ちゃん、今日家にスマホ忘れて行ったみたいだよ。」
次は、高校生か大学生ぐらいの女の子が出てきた。
「ほら。メールがこないのは、スマホが無いからなんだよ。それに、愛はもう大学生だぞ。このぐらいまで友達と遊んだりしててもおかしくないだろう。」
「そうだよ。お母さん、心配しすぎ。」
男の人と女の子が次々にそう言ったら、女の人はへなへなと座りこみ、手で顔をおおった。
「もう··········嫌なのよ!!子どもを失うのは··········!!」
呆然と3人の様子を見ていた秋君と私は、そこで顔を見合わせた。
「子どもさんが·············亡くなられたのかな··········」
秋君が、切ない表情で言う。
「あれっ?お母さん?········お父さんと歩も。············ただいま。」
愛さんと思われる人がパタパタと帰ってきた。女の人はその姿をとらえると、涙を流しながら抱きついた。
「良かった。無事だったのね·········。」
愛さんは、そこでだいたいの状況を察したらしい。女の人の背中をさすり、
「友達と喋ってたんだ。遅くなってごめんね。」
と言った。
女の人が少し落ち着くと、4人は家に入っていった。
「彩ちゃん、きっとこの家に亡くなられた子どもさんの仏壇あるよね。まいらせてもらわない?」
まあ、目の前であんなの見ちゃったら、いくら悪魔でも無視はできないよね。私がうなずくと、秋君は、その家に入った。私もあとに続く。
チーン·······チーン···········。
ちょうど、りんを叩く音が聞こえてきた。秋君と無言の合図を交わし、音が聞こえた部屋に入る。
予想通り、そこに正座して手を合わせている愛さんの前には仏壇があった。
でも、衝撃的なものを、そこで見ちゃったんだ。秋君は、先に見ちゃったみたいで、うぅ、ってうめき声をあげて、頭をかかえた。
「お母さんがあんなに心配性になっちゃうのも仕方ないよね·········。自分の子どもを、それも一気に2人も、事故で亡くしちゃったんだもんね············。」
衝撃的なものを見て、呆気にとられていた私も、愛さんのつぶやきを聞いたとたんに、激しい頭痛が襲ってきて、うめき声をあげて座り込んだ。
私たちが見ちゃったもの、それは、亡くなられた子どもの遺影。
そこには·························私と秋君が写っていたんだ。
次、完結します。