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十人十色の主人公  作者: 南 屋
第一章 『主人公の物語』
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『神の存在と授けた力』

「――っ!」


 俺が右のてのひらに纏ったのは透明の液体。水素と酸素の化合物――つまりはただの水……。

 掌に纏うと言ってもその量はグッと纏めてしまえば缶ジュース一本分にも満たない。

 俺は纏った水を掌の上で球体へと形を変え、力任せに投げつけるように射出する……が、数メートル飛んだところで形は崩れ、ベチャっと情けない音を立てながら土と砂利で出来た地面に落下。

 その後は何が起きるわけでもなく徐々に吸い込まれていく。


「はいおっけーい。じゃあ次はぁー……?」


「火は一番最初にやりましたよ……。あと残ってるのはこおりやみです」


「あぁー、そうだっけぇ? んーじゃあー……どちらにしようかなー……天の神様の言うとお――」


「神様ねぇ……」



 地球上には色んな神話や伝承があるが、中でも日本は『神』が多過ぎると思う。

 まず八百万やおよろずの神。これだけでもう八百万はっぴゃくまんだ。どう考えてもやりすぎだろ昔の人。

 こっちはちょっと違うが、日本の若者はやたらと神をつけたがる気がする。

 神アニメやら神きょくやら神動画やら。

 いやまぁ、俺もその若者の一人だからどれも嫌いなわけではないんだけど。


 そんな神の逸話の一つに、天地てんち創造そうぞうという話がある。

 この話に出てくる神様は、目の前の担任教師に負けず劣らずなかなかに適当だと思う。


 一日目 暗闇がある中、神は光を作り、昼と夜が出来た。

 二日目 神は空をつくった。

 三日目 神は大地を作り、海が生まれ、地に植物をはえさせた。

 四日目 神は太陽と月と星をつくった。

 五日目 神は魚と鳥をつくった。

 六日目 神は獣と家畜をつくり、神に似せた人をつくった。

 七日目 神は休んだ


 この神話を信じる者もいれば、鼻で笑う者もいる。俺は笑う側だ。だってそうだろう?

 俺は秀才では無いので何がおかしいかを詳細に説明することは出来ないが、昼と夜をつくって、海と植物までつくった後に、やっと太陽と月をつくったんだから。光をわざわざ作った後に太陽を作るのもなんか二度手間な気がするし。

 他にも冷静に見てみると変な部分が多い気がする。

 まぁなんにせよ、色々と夢見がちな俺ではあっても、神の存在だけは何故か全く信じていなかった。


 しかし、俺があの不思議な声を聞いた日から遡ること十五年前。

 神は新たなたねを撒くために、現実世界に現れた。



 種を授けられたのは、十五歳の誕生日を迎える中学生。

 大人と子供の境目で、捨てられない想いを、叶えたい願いを、強い憧れを抱く若者達。

 神が撒いた種は若者の夢や願いと繋がり、特殊な能力を発現はつげんさせた。


 ――世界共通で≪シード≫と名付けられた特殊な力。


 超能力や異能とも言えるその力は人によって千差万別せんさばんべつ

 わかりやすいところでテレポートや発火パイロキネシスなどに始まり、もっと複雑な唯一無二の珍しい力まで様々だ。

 神がそんな力を若者たちに与えた理由は、とある実験の為だった。


「てーい」


「もう少しやる気を出してくれるかなぁー……まぁ僕はどちらでも構わないんだけどさぁ」


 あんたに言われたくねぇよとツッコミを入れたくなるような覇気の無い声。

 俺の右手には微かに残る白い冷気。氷を射出した後のただの名残だ。

 俺のシードも複雑な唯一無二と言える力なのかもしれない……その弱さを除けばだが。


「君、かき氷屋さんとかならタダで出来そうだよねぇ」


「喧嘩売ってんのか……」


 確かに俺の出した陳腐な氷ではその程度が関の山だろう。しかし、神の思惑はもっと遥か高い所に存在する。

 自らの住処である地球を破壊しつつ、技術を発展させて生活を豊かにしようとする。時には同じ種族で殺し合う人間。

 その人間に新たな力を与え、人間そのものを進化させる事によってどう変化するか。

 環境の破壊を防ぎ、より良い世界を作る事が可能なのか。その実験の為だと、神は言ったそうだ。

 本当かどうかはわからない。直接聞いたわけではなく、授業やまたきで得た知識だからな。


 その為に与えられた≪シード≫は、授けられた時点で個人が想い描いていた夢や憧れ、願いによって確定する。しかしそれはどの力も十五歳の若者に与えて放置出来る様な代物しろものではない。


 その為、神みずからがシードの存在を一部の人間に明かし、その後、各国の重役へ伝えられた。もちろんこの時点で様々な議論に発展はしたらしいが、最終的には平和的解決になったと言ってもいい。

 現状では大きな問題は何一つ起こっていないからだ。


 この時、神や選ばれた人間がどのようにその存在を納得させたのか。そして伝えた重役に対してどのようなかせをつけて口を封じたのか。

 この辺りの事を、俺達の様なただの学生は何も知らない。もしかすると何か後ろ暗い事もあったのかもしれない。


 とにかくその結果、シード保持者ほじしゃを一般人と同様に一人の人間として扱い、軍事力としての一切の使用を禁止し、個人の意思を無視した使役を防ぐ条約が各国間で結ばれた。そして保持者の存在はその条約の一つによって、存在を公表しないという事が決定した。


 しかし、未知の力を持った若者をそのまま放置しておくわけにもいかない。

 シード保持者が存在する国では、保持者を一定期間保護し、シードの力を正しくコントロール出来るまでの教育をおこなうという結論に落ち着いた……のだが。


「神ってのはホントに俺の想いを汲み取ってくれたんすかね?」


 春風と共に潮の香りが運ばれてくる第二グラウンド。

 シードを使用する授業や検査時にのみ使われるこの第二グラウンドは、校舎やその他の建築物への被害を防ぐため、かなり離れた海岸沿いに作られている。

 そのグラウンド中央で、シード能力の測定そくていをしてくれている担任教師へと問いかけた。


「いやぁー、僕に聞かれてもねぇ……」


 神は俺の想いを汲み取ってくれないし、担任教師は俺の愚痴を受け止めてくれない。


「そもそもぼかぁ、君がその時何を想い描いてたか知らないしねぇ……。ま、いいから最後の一つやっちゃってー」


『ぼくは』が『ぼかぁ』になっている俺の担任、木枯こがらし岳人がくと

 発する言葉の全てがだらだらしている。なんでこれで教師がつとまるのか……。

 やる気のない教師と接するのは生徒側としても楽でいいけど、行き過ぎると若干イラッとするのな。

 わかってますよ、早く終わりにしたいんですよね。俺も同じですから。

 俺は小さな溜息を返事の代わりにして、最後の一つを発動させる。


 右のてのひらおおったのは黒いもやのような何か。けむりに近いかもしれない。

 掌サイズから大きくなることは無い。自ら作り出したそれを見つめた後、再び溜息をつきながら能力を解除する。


「最後の一つも変化なしかぁ……。十色といろ叶芽かなめ。シードのランクは変わらずE……っと」


 十色といろ叶芽かなめ。俺の名前だ。本名だ。

 この特別感溢れる名前。苗字はどうしようもないが、下の名前にまでちょっとした特別感が漂っている。これも俺が憧れを捨てられなかった理由の一つだったのかもしれないな。


「なんで俺のシードってこれなんですかね」


「さぁねぇ。それにしても、じゅういろに、かなえるかぁ。かわいそうに……」


「おいこら。教師が生徒の心えぐるんじゃねぇよ」


 おっと、思わず敬語が抜け落ちてしまった。でも許してもらおう。実際かなりえぐられた。


 俺に発現したシードは【天地属性オールエレメント】。

 このシードの名前は、その能力と関連していて、理解できる範囲でなら自分で考えて付けることが出来る。

 俺のシード名はギリギリで許可を貰ったネーミングだ。ちなみに在学中に変更も可能。そろそろ変えようかとも思っている。


 表記は漢字で、読み方が英語やカタカナ語。これは日本ならではらしい。

 シード保持者の大多数は夢見がちな若者だ。加えて日本の保持者は、漫画やその他の作品による影響を受けている事が多い。

 するとどうなるか……こうなるのだ。


 大抵のシード保持者はこんな感じだ。俺だけじゃない。

 まぁ確かに、ここに入学してきたばかりの頃は浮かれていて、ちょっとアレな思考になって付けてしまった部分もあるっちゃあるんだけど。

 もう一度言うが俺だけじゃない。皆やっている。俺だけじゃない。誰に言い訳してるんだろう……。


 で、肝心の【天地属性オールエレメント】。これだけ聞けば何やら凄まじそうなイメージだ。

 十五歳だった頃の俺が必死になってスマホで調べた結果、この世の全てという意味になるだろうと結論付けて名付けた。

 その意味の通り、右の掌からありとあらゆる属性の力を使うことが出来る……のだが、この力が名前負けもいいところ。


 わかりやすいのは火属性。もちろんちゃんと火は出る。間違っても弁当をチンする属性ではない。

 だがしかし、その火力はライター以上、ガスコンロ未満。掌に納まる小さな火の玉が限界。

 火の玉を投げるように使うことも出来るが、勢いをつけすぎると消えてしまう。そのせいで速度は心霊現象の火の玉レベル。かりに当たっても払えば消えるしな。


 他の属性も同様に、風はそよ風。水は小さなマグカップ一杯分で、土は泥団子どろだんごが一つ作れて、雷は冬場の静電気程度。一瞬パチッとなっておしまいだ。

 さっき使った闇属性は何なのかよくわからない靄が出るだけ。あぁ、そういえばバナナに使ったら茶色い部分がちょっと増えたっけ。


 しかし……その中でも使える属性は存在するのだ!

 氷属性はおしゃれな丸いロックアイスを作れる上に、投げてもそれなりに使える! かき氷屋も出来るぜ!

 光属性も蛍光灯くらいの明るさを出せるから、ギリギリ目くらましに使えなくもない! 停電した時は任せな!


 ちなみに俺のオススメは木属性だ。

 なんと、握った掌を開くと中から可愛いお花さんが! ……やばい、泣きそう。

 つまり、どれもほとんど役に立たない力ではあるものの、俺が使える属性は一応全部で九つある。


 そして俺の苗字は十色といろ

 シードの力に人名は関わっていないはずとはいえ、見事に一色いっしょく足りないのだ。

 どうしてこんな中途半端になってしまったのか……。


 シード。これはたねを意味するところから名付けられている。

 俺のシードは十五歳で発現したその日から今まで、一切の成長が無い。

 つまり種からが出ないのだ。願いも空しくかなわない。


 十色といろ叶芽かなめ。悲しい名前だ……。


「十色君はさぁ。その髪の毛もシードに関係してるんじゃなかったっけぇ? 何かわからないの?」


「わかってたらもっと生き生きしてますよ。さっきから俺をいじめて楽しいですか?」


「そうかい? じゃあ結局やっぱりただの若白髪わかしらがなのかねぇ……」


 多分、一応、恐らく、木枯先生は俺を気遣っているつもりなんだろう。そこに仕方なくという雰囲気がにじみ出ていなければもっと良かったんだけど……。


 右の前髪、量は三分の一くらいだろうか。話題に上がった白髪しらがを指先で摘まむ。

 いや、やっぱりこれはただの白髪しらがじゃ無い。白髪なら白髪染めで染まるはずだ。


 シードの発現と同時に起きた髪色の変化。

『いやぁ……ちょっと最近白髪が増えてきてー』とかいう次元ではなく、完全にその部分だけ根元からしろ

 髪を部分的に染める≪メッシュ≫とも言えるような状態になっていた。


 最初は能力のせいで脳にストレスでもかかったのかと思ったが、人間の髪は一瞬で真っ白になったりはしない。そもそもシードが人知じんちえる力なわけだが、結局はただの白髪では無かった。


 中学生だった俺は髪を染めた事などなかったが、手当たり次第に黒染めや白髪染め(違いは知らなかったが)を使いまくった。が、いくらやっても染まらない。

 家族や友人や教師陣には不思議がられたし、怒られもした。


 しかし、実際に染まらない事を証明するともはやどうしようもない。

 そこだけ切り落とすにしては量が多過ぎたしな。部分ハゲになってしまう。

 中学生でそれは、ということで結局俺の髪の毛は守られたのだった。


 そしてその後、シード保持者が集められたこの学園に転入。

 初日にシード能力の内容について検査を受けたところ、染まらない白髪も能力に関係しているという事がわかったのだが、どう関係しているのかは不明のままだった。


 それでも、当時の俺はその髪も気に入っていたのだ。ただの黒髪じゃないのが少しかっこいいとすら思っていた。

 ちなみにこの白メッシュ。その部分だけがやたらと髪の伸びが早いので、それに合わせて全体的に俺の髪は少し長めだ。それでもまだ白メッシュが長いんだけど。


「先生が解明かいめいしてくださいよ。この白メッシュについて」


「無理だよぉ。だって僕ぁそういうシード保持者じゃないしねぇ……」


 先生が仮にそういう保持者でも、絶対やってなかったこれは。

 ていうかそもそも、先生がどんなシード持ってるかって誰も知らないんじゃ……。

 俺の視線がいぶかしげなものになっていたのか、先生と目が合えば気まずそうな苦笑を返された。


「まぁーあれだ……。頑張りなさいよ……青少年せいしょうねん


 手に持っていたファイルをパタンと閉じると、それをひらひらと振りながら一言残して先生は去っていく。その後ろ姿に軽く頭を下げ、いつまでも見送った。

 やがて先生の姿が見えなくなると、残された俺は大きく溜息をつく。


「頑張りなさい……か」

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