主旨よりも大事な議題について話そう
「マスターには華があると思う」
「あら、どうしたのいきなり。煽てても何も出さないわよ」
「いや、ごめん。言い方が悪かったね。僕が言ってるのは君個人の話じゃないよ」
「それはマスターという職業に華があるっていうこと?紛らわしい言い方をするのね」
「そんなに拗ねないで欲しい」
「別に拗ねてなんてないわ。それで、マスターのどこに魅力があるって言うのかしら」
「珈琲っていうのは大人の証だと僕は思うんだ」
「そうね。今では当たり前のように感じるけれど、この良さを感じたのは大人になってからだわ」
「子供の頃はこの香りだけで満足だったんだけどね。とても苦くて飲めたものじゃなかった」
「可愛いことを言うじゃない。あなたにも人並みにそんな時代があったのかしら」
「君が僕の事をどんな風に見ているのかが気になる発言だね」
「訂正するつもりはないわよ。自分の今までの発言から察しなさい」
「この話はあまり楽しい話になりそうにないね。本題に戻ろう」
「ふふっ。都合の悪い話はおしまい?それこそ子供みたい」
「まったく、マスターと話しているといつもこうなる」
「拗ねないでちょうだい。あなたを見てると、どうしてもからかいたくなってしまうのよ」
「まあいいよ。それじゃあ珈琲の話に戻そう」
「違うわ。あなたが話していたのは、私じゃなく、マスターっていう職業には華があるって話」
「珍しく細かいところを突っ込んでくるね。よっぽど僕の発言がお気に召さなかったのかい?」
「そんな些細なことで怒るものですか。失礼な人ね」
「いや、その顔は十分怒っている顔だよ。マスターも僕のことは言えないね」
「私を子供扱い?ずいぶん思い切った発想をするのね」
「そこまで馬鹿にした訳じゃない。素直に珍しいと思っただけだ」
「何が?」
「マスターが僕の発言にそこまで嫉妬するなんてね」
「自惚れね。痛々しいったらないわ」
「ああ、それとこれは言うまでも無いことだけどね」
「何かしら。この期に及んで、まだ何か言い足りないの?」
「マスターには、個人的に華があると思ってるよ」
「・・・いいから話を続けなさい」