素直になれない話をしよう
「想像してみてほしい。例えば僕が、世界一の嘘つきだとしよう」
「それは想像ではなく、リアルよ。お題からやり直して貰えないかしら」
「身も蓋もないことを言うのは止めてほしいね。心外にもほどがある」
「あら、心外だなんて……今まで一度だって、貴方に心なんてものがあったかしら」
「……どうにも今日は厳しいね。虫の居所が悪かったのかな?」
「いいえ、別に……」
「相当ご機嫌斜めのように見えるけれど……よし、じゃあ、まずはマスターの話を聞かせてくれないかな」
「結構です。結構よ。お客様に愚痴るほど、私は狭量じゃありせんから」
「……思い当たる節が見当たらないな。その様子だと、僕に落ち度があるようにしか思えない」
「思い当たる節がない!? ええそうね、所詮貴方はお客様ですもの。ええ、確かにこの世には無数の喫茶店があるでしょうよ。何処に足を運ぼうがそれはお客様の自由。でも、どうかしら、一年近くも音沙汰無しなんて、一体どういう了見なのかしらね。そこの所を是非とも、しっかりお聞かせ願いたいものだわ」
「……正論を展開しながら、それでも感情を押し出すあたり、これは相当ご立腹だね」
「いいえ、怒ってなんていません。怒る理由がないんですもの」
「はてさて、これは会話どころじゃないね。今日のところは、ここまでにしておこうか」
「……何よ、もう帰るつもり?」
「ああ、長居は禁物だよ。それにもう……十分楽しめたしね」
「あら、そう。いつも以上に勝手なお客様ですこと。でも、そうね。この感覚も久しぶり」
「僕だってそうだよ。この空間、この会話がきっと僕には「心地良い」んだと思う」
「本当に素直じゃないんだから。ここはもっと、素直な言い回しをしなさいな」
「じゃあ、マスターだったら何て言う?」
「そうね。私だったらきっと、「嫌いじゃない」ーーかしらね」




