表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/66

出来過ぎた偶然について話をしよう

「何をそんなにソワソワとしているんだい? 見ているこっちが落ち着かない」

「あら、そんな風に見える? それならヒントをあげようかしら?」

「いつになく優しい口調なのが怖いね。何かあるのかな?」

「いいえ、特段変わったことはありませんとも。——別にね」

「含みをもたせるわりには、下手くそな演技だね。しかし先が気になるにも事実」

「あら、そんなに教えて欲しいのかしら。それならそれ相応の……」

「いやいや、そこまでの態度を取られたら、むしろこの時間を引き延ばそうとするのが僕の努めじゃないかい?」

「…………」

「むすっとした顔も素敵だよ、マスター」

「……そんな褒められ方されても嬉しいものですか」

「とは言いつつもマスターは正直だね。まるで幼子のように純粋だ」

「上げた後に落とそうとするのは悪い癖ね。ええ、私も冷静になれたわ」

「おっと、この店はお客様に暴力を振るうのかな」

「いいえ、これは躾よ。言うことを聞かないお客様にはマナーを教えてあげませんと」

「これでも大人のつもりなんで、マナーには気をつけている方なんだけどね」

「人を不快にさせる——もとい、人で遊ぶような行動は立派なマナー違反よ。反省なさい」

「了解。それなら、謝罪を込めてあらためて教えてもらえないかい? マスターは何をそんなに浮かれているのかな?」

「あら、着眼点は悪くないわね。喜びなさい、及第点をあげるわ」

「よほどご機嫌な様子だね。これは実に興味深い。続きをどうぞ」

「いや——でもそうね。趣向を変えてみようかしら。知りたかったら、当ててごらんなさい」

「ふぅ……クイズはそこまで得意な方じゃないんだけどね。仕方ない、ここは直感に頼るとしようか」

「さあ、答えをどうぞ」

「悲しいかな、僕にはユーモアのセンスが無くてね。咄嗟に思いついた答えがこれまた情けない。マスター、もしかして今日が僕の誕生日だと知っていたのかい?」

「————はい?」

「うん、その様子だとただの自惚れだったみたいだね。いやいや、恥ずかしくて言葉もない。それなら他には……」

「ちょっと待ちなさい。ちょっと待ちなさいな」

「どうしたんだい、そんなに慌てるマスターも珍しい」

「慌てるも何も……貴方もそうだなんて、有り得ないわ。訂正なさい、訂正なさいよ」

「何をそんなに喚いているのか、僕には全く見当も……って、まさか——」


「貴方も今日が誕生日だなんて嘘よ!」

「マスターも今日が誕生日なのかい!?」


「—————」

「—————」


「まあ、いい大人だし、ここは一つ穏便に済ませよう」

「ええ、そうね。たかが誕生日ごときで浮かれる年でもないものね」

「でも、とりあえずケーキは注文しておこうか。マスターの分も合わせてね」

「ありがとう。はぁ……まったく、こんな偶然有り得るのかしら」

「何はともあれ、お誕生日おめでとう」

「ええ、でもそれを言うなら、貴方もおめでとうよ」


「「この運命か偶然に——おめでとう」」


「何とも恥ずかしいものだね」

「ええ——本当にね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ