出来過ぎた偶然について話をしよう
「何をそんなにソワソワとしているんだい? 見ているこっちが落ち着かない」
「あら、そんな風に見える? それならヒントをあげようかしら?」
「いつになく優しい口調なのが怖いね。何かあるのかな?」
「いいえ、特段変わったことはありませんとも。——別にね」
「含みをもたせるわりには、下手くそな演技だね。しかし先が気になるにも事実」
「あら、そんなに教えて欲しいのかしら。それならそれ相応の……」
「いやいや、そこまでの態度を取られたら、むしろこの時間を引き延ばそうとするのが僕の努めじゃないかい?」
「…………」
「むすっとした顔も素敵だよ、マスター」
「……そんな褒められ方されても嬉しいものですか」
「とは言いつつもマスターは正直だね。まるで幼子のように純粋だ」
「上げた後に落とそうとするのは悪い癖ね。ええ、私も冷静になれたわ」
「おっと、この店はお客様に暴力を振るうのかな」
「いいえ、これは躾よ。言うことを聞かないお客様にはマナーを教えてあげませんと」
「これでも大人のつもりなんで、マナーには気をつけている方なんだけどね」
「人を不快にさせる——もとい、人で遊ぶような行動は立派なマナー違反よ。反省なさい」
「了解。それなら、謝罪を込めてあらためて教えてもらえないかい? マスターは何をそんなに浮かれているのかな?」
「あら、着眼点は悪くないわね。喜びなさい、及第点をあげるわ」
「よほどご機嫌な様子だね。これは実に興味深い。続きをどうぞ」
「いや——でもそうね。趣向を変えてみようかしら。知りたかったら、当ててごらんなさい」
「ふぅ……クイズはそこまで得意な方じゃないんだけどね。仕方ない、ここは直感に頼るとしようか」
「さあ、答えをどうぞ」
「悲しいかな、僕にはユーモアのセンスが無くてね。咄嗟に思いついた答えがこれまた情けない。マスター、もしかして今日が僕の誕生日だと知っていたのかい?」
「————はい?」
「うん、その様子だとただの自惚れだったみたいだね。いやいや、恥ずかしくて言葉もない。それなら他には……」
「ちょっと待ちなさい。ちょっと待ちなさいな」
「どうしたんだい、そんなに慌てるマスターも珍しい」
「慌てるも何も……貴方もそうだなんて、有り得ないわ。訂正なさい、訂正なさいよ」
「何をそんなに喚いているのか、僕には全く見当も……って、まさか——」
「貴方も今日が誕生日だなんて嘘よ!」
「マスターも今日が誕生日なのかい!?」
「—————」
「—————」
「まあ、いい大人だし、ここは一つ穏便に済ませよう」
「ええ、そうね。たかが誕生日ごときで浮かれる年でもないものね」
「でも、とりあえずケーキは注文しておこうか。マスターの分も合わせてね」
「ありがとう。はぁ……まったく、こんな偶然有り得るのかしら」
「何はともあれ、お誕生日おめでとう」
「ええ、でもそれを言うなら、貴方もおめでとうよ」
「「この運命か偶然に——おめでとう」」
「何とも恥ずかしいものだね」
「ええ——本当にね」




