ハロウィンの過ごし方について話そう
「いらっしゃい、恐怖の館へようこそ」
「・・・」
「あら、つれない反応ね。似合ってないかしら」
「びっくりしたよ、まさかマスターが仮装してるなんてね」
「少し世間の祭りに便乗しただけよ。似合うかしら」
「最高だね。まるで本物の魔女みたいだ」
「素直に受け取れない感想ね、今の言葉、後悔しないといいわね♪」
「ちょっと、そんなに怒らないでよ。見た目だけだよ見た目だけ、他意はないよ」
「本当にそうかしら?たまにあるのよね、本音がポロっと出る事が」
「僕はハロウィンについてあんまり詳しく無いんだけど、魔女をチョイスすること自体どうなんだい?」
「強引に話を変える気?まあいいわ、私もこの日の起源が収穫祭だって事くらいしか知らないわ」
「その程度の知識でよくそこまで気合の入った衣装を作ったもんだね」
「心外ね、ではあなたは自分が参加した祭りの起源を全部理解してるっていうの?」
「そう言われると困るな、全てどころか、にわかの知識しか持ってないよ」
「そうでしょう、だからそんな些末はどうでも良いのよ」
「なんだかいつもよりも楽しそうだね」
「そうかしら?まあこの衣装に悪い気はしてないのは確かね」
「とんがり帽子に黒いマント、それは本当に珈琲を淹れてるのかい?」
「魔女に薬はつきものよ。今は口の悪いお客さんを矯正する薬を調合しているの」
「それじゃあ駄目だよ、もう二度そのお客様はこの店に来なくなってしまう」
「それは困ったわね、じゃあどんな薬なら効果的なのかしら?」
「そうだね、逆にそのお客様を虜にしてしまうような媚薬はどうだろう?」
「媚薬か、あまり意味がある様には思えないんだけど」
「どうしてだい?」
「だってあなた、もうこの店に夢中じゃない。これ以上ないものをどうやって上げろっていうのよ」
「僕がそこまでこの店にご執心だと?それはマスターの妄想じゃなくて?」
「ええ、私の見る目に間違いはないわ。あなたはもう夢中なのよ」
「へぇ、おもしろい。じゃあ、今日のオススメは何なのかな?」
「お客さま、本日のオススメは本物の魔女が抽出したそれはそれは危険な香りの飲み物です」
「確かに毒々しい色をしている飲み物だね。それの名前を教えてもらっても?」
「ええ喜んで、こちらの飲み物は『珈琲』。酷く苦く酷く中毒性のあるお客さま限定のブレンドですわ」
「それは良い、ちょうど刺激が欲しかったところなんだ。それを一杯貰えるかい?それと、」
「あら、まだ何かご所望で?」
「とびっきりの魔女が作った甘いケーキと、それを楽しませてくれる淡い話をひとつずつ」
「ふふっ、ご注文たしかに承りました」
「お客さま、どうかごゆるりとお寛ぎ下さい。本日はいつもと一味違う時間をお過ごし頂ければ幸いです」
「素敵な魔女と素敵なお菓子があるんだ、それだけでも十分贅沢な一日だね」