間違いと間違い探しについて話をしよう
「初夏ね、冷たいものが恋しい季節だわ」
「ああ、全くその通りで、その事柄については一部の反論もない」
「こんな日は日陰でゆったりと本でも読みたいものだわ」
「そこにも反論はしないし、むしろ共感の念を抱かずにはいられないね」
「暑いわね」
「暑いね」
「……何よ、さっきから含みのある言い方ばかり。言いたいことがあるなら言いなさいな」
「本当にそれが本音なのかな?」
「鬱陶しい人ね。知っているでしょう? 私は率直な意見が聞きたいの」
「じゃあ言わせてもらうけれど、どうしてこの店はこんなに暑いんだい? 仮にもここは喫茶店のはずなんだけど」
「仮にもとは失礼な話ね。ここは事実、しっかりとした喫茶店です。反省なさい」
「ダウト。それは質問をはぐらかしているだけで、答えてはいない」
「あら、楽しい遊びじゃない。そこまでして私の失態を笑いたいのかしら?」
「ダウト。それもマスターの私的な感情であって、僕の質問には答えきれていない」
「本当にうるさいお客様。だからしっかりと団扇を渡してあるでしょう? 風情があって良いじゃない」
「マスターは時々、恐ろしいほど間抜けな発言をする。どうして喫茶店で団扇を扇がないといけないのか」
「風情を感じられない人間は罪よ。もっと大らかな心を持ちなさいな」
「ダウト。この現状を風情とは言わないし、それこそ僕の問い掛けには何の答えも返していない」
「答えを急ぐのも罪よ。人間にはどうしたって辿り着けない極地があるの」
「マスターは今この現状がそれだと? クーラーが壊れたこの蒸し部屋で過ごすこの時間がそれだと?」
「……機械なんて儚いものよ」
「機械に罪はない。いつだって機械を使うのは人間だ。そう、さっきのように無理矢理クーラーを掃除しようとしたりね」
「だから……お手製の団扇をあげたじゃない。それで我慢なさいな」
「ダウト。物事に代わりを見つけるのは罪だよ。それは不変でどうしようもないものだ」
「ダウト。それこそ真実は一つじゃないわ。人様の気遣いはしっかりと感じ取るものよ。お客様」
「ダウト。それこそ真実は間違い探しの一種に過ぎない。この現状を正かどうかと言われたら……」
「ダウト。それが気遣いが出来てないって話じゃない。……これぐらい見逃しなさいよ、このケチ」




