贖罪と断罪についての話をしよう
「マスターは最近、夢を見た記憶があるかい?」
「そうね……いざ思い出せと言われたら、難しいものね」
「僕はね、時折自分の意思で夢を見ることができる」
「あら、なかなか興味をそそられる話じゃない。貴方は夢をコントロールできるっていうの?」
「あながち間違いとも言い切れないね。実際に僕は、決まった周期で決まった夢を見てしまう」
「そんな言い方をするからには、あまり幸せな話ではなさそう。……話してごらんなさい」
「ああ、流石はマスターだ。こうにも僕を甘えさせてどうするつもりなのか」
「どうもこうもないわ。ただ、私は貴方のその顔が嫌いなだけよ」
「それはビジュアル的な面で?」
「馬鹿おっしゃい。それとも、そうまで巫山戯ないと話も出来ないのかしら?」
「……まったく、マスターは本当に意地が悪い」
「ええそうね。意地が悪いと思うなら、そろそろ話しなさいな。お客様の話を聞くのも、私の大事な仕事なの」
「……僕にはね、許されざる行為を犯した過去がある。自分のエゴで人を巻き込み、他人の気持ちを踏みにじった記憶が……」
「…………」
「それはね、僕にとって今も後悔であり、でもそれは忘れようとすれば色褪せてしまうほど虚ろなものなんだ」
「後悔……しているのに?」
「そう。僕はあの頃とは何も変わらない。自分のエゴのために自分を縛り、それが無ければその後悔自体を忘れてしまう」
「それは……人の弱さよ」
「そうだね、そうかもしれないし、でもそれを認めるわけにはいかない。それこそ、人間はそこまで強くは無いものだとも思ってしまう」
「随分と言い方に含みを持たせるのね。貴方が自身に対して思うことがあることなんて、ずっと知っていたわ」
「……ああ、そのマスターの心の強さが僕を助けてくれた。その優しい空間こそが、僕を本当に助けてくれた」
「らしくないわね。結局……結局、貴方は何が言いたいのかしら」
「僕はね、また忘れていたんだよ。自分がどういった人間で、どうやって生きていかないといけない人間なのかを。ただ、この店の雰囲気と、マスターの心に甘え過ぎていた」
「だからっ……!」
「ありがとう、マスター。僕はね、これ以上、此処に来るべきじゃない。だから、今日で常連さんはおしまいです」




