最上と奇跡を望む大人の話をしよう
「……残念ながら明日は晴れよ」
「それならそれで僕は別に良いと思う。楽しみ方は人それぞれだ」
「あら、誰も楽しみが無くなっただなんて口にはしてないわ」
「なら、どうしてマスターはそこまで口を尖らせてるんだろうね」
「貴方ねぇ……気分とムードは大事なファクターよ。楽しむのならいつだって最上を期待したいじゃない」
「その思考に僕がついていけるかどうかは置いておくとして、最上を目指すという考え方は嫌いじゃないね」
「なら、素直に首を縦に振れば良いじゃない……それで、今日もまたお得意の持論を展開頂けるのかしら?」
「望まれたなら拒む理由は無いね。そもそも、他力本願なところが頂けない。最上を望むなら、それ相応の努力とそれ相応の……」
「じゃあ聞きますけれど……貴方、私に天気までどうこうしろと言うのかしら?」
「…………」
「勿論、そんな暴論を振りかざされても、私の考えは変わらないわよ?」
「その稀に見る得意顔もそろそろ定番になってきたね。ああ、でも今回は認めよう。これは僕の落ち度だ」
「それは結構。少しぐらいは悦に浸れそう」
「ああ、好きにしてくれれば良いさ。濃い珈琲を貰えるかい?」
「自分を苛めても無様なだけよ? カフェオレにしておきなさいな」
「そのご機嫌な顔を何とかしてやりたいところだけど、どうやら今は言葉も出そうにないね」
「あら、それは残念。それと勘違いしないで欲しいんだけれど……」
「何だい?」
「別に私だって浮かれてたわけじゃないのよ。ただ、こんな日だからこそ、雪が降ればと思うのは、止められないものなのよ」
「……なるほど、最上で愉しむのなら欠かせないファクター。まるで少女のような願いだけれど……」
「ええ、起きないからからこその奇跡の夜。それぐらいは大人ですもの。理解はしているわ」
「ただ、僕たち大人ですらも自然と願わずにはいられない。きっと、そういうことなんだろうね」




