大人のミスとそれに対する対処の仕方について話をしよう
「誰にだってミスはあるわ、だからこれは当然のことなの」
「マスター、その意見には反論させてもらうよ。誰にだってなんて言葉、この世には存在しない」
「なら、知人でも友人でもなんでもいいわ。今はそんな戯言に付き合っている気分じゃないの」
「知人と友人は似ているようで全く別のものだね。その括りも僕としては享受し難い」
「だから……ああ、なるほど——わざとね、貴方」
「何をそんな——僕はいつも通りマスターとの会話を楽しんでいるだけだよ」
「楽しむの字面がきっと異なるのね。貴方の文字はきっと愉しむだわ」
「そこに重きは置かないよ。僕は小説家じゃあないからね」
「あら、てっきり私は小説家を気取っているものだとばかり……ごめんなさい」
「どうして謝られてるのかは分からないけど、その目は哀れみを多分に含んでそうだね」
「だって、貴方小説家でもないのなら、その性格……」
「世にいる小説家を敵に回すような発言は控えるべきだよ。彼等は豊富な語彙を持っているだけだ」
「あら、それは失礼。なら、貴方のその無礼な態度は何処から来るのかしら?」
「お客様に対して面と向かって無礼だと言ってのけるマスターもなかなかの桀人だと思うけどね」
「何度も言うようだけれど、それはお客様次第よ」
「選別は大事だからね。いくらお客様とはいえ、一種の線引きはとても大事なものだ」
「……まるで自分は大丈夫だとでも言いたそうね。——それとも、そう言って欲しいのかしら」
「特別扱いは嬉しいものだよ。でも、その言い方で僕を丸め込めると思っているのかい?」
「あら、私がその気になれば、貴方、きっとすぐに——」
「例えば——珈琲を頼んでも一向に出てこない。それなのにマスターはそれと知らずに自身だけは暖かい珈琲を口に運ぶ。さて、これをお客様から指摘されて気付くなんてそんな事がミスなんて言葉で——」
「ぅ〜~~~~~——うるさいわよ、馬鹿! 大人のミスぐらい、笑って見逃しなさいな!」




