損得勘定と粋な計らいについて話をしよう
「……貴方、いつもお任せを頼むわね」
「それが何か問題でも?」
「いいえ、別に問題ってほどじゃないんだけど……味はちゃんと分かっているのかしら?」
「まさか……僕を試す気かい?」
「あら、試されて合格するとでも?」
「前提条件が間違えているよ、マスター。僕にはそもそも、合格する気がない」
「随分と居直るわね。あまりにも真っ直ぐ過ぎて心地がいいわ」
「その割には頭を押さえるジェスチャーは取るんだね?」
「ええ、貴方と話してるといつもこうなるの」
「マスター、これでも僕はお客様だよ?」
「ええ、ええ、そうね。そうだったわね。貴方はお客様ですものね」
「さりげなく僕から伝票を取り上げるあたり、これは出入り禁止でも言い渡されるのかな?」
「あら、そこまで貴方は悪い事をしたのかしら?」
「まさか、僕にはそこまでの自覚はないね」
「それなら良いじゃない。……っと、追加でケーキを注文ですね、お客様?」
「悪辣なマスターだ。改竄ならせめて、もう少し分かりにくくしたらどうだい?」
「あら、私には追加注文の声が聞こえただけですもの。後ろめたいことなんて、何もありません事よ?」
「ああ、分かったよ。そこまで言うなら僕の完敗だ。追加でおすすめのケーキを頼めるかい?」
「……何よ、本当に甘い人ね。貴方、損な生き方をしているわ」
「損得勘定で生きてはいないよ。……まあ、得はしてないんだろうけどね」
「それが損してるって事なのよ。まったく、呆れてものも言えない」
「経営を一手に担うマスターからすれば、許せない生き方かい?」
「馬鹿ね、私がお客様に対してそんな事、思うわけないじゃない」
「ははっ、確かに。それはお客様に対して言える事じゃないのかもね。……ところで」
「何よ?」
「僕はこの店の大体のメニューは頼んだけど、このケーキに苺なんて乗ってたかな?」
「さあ、どうでしょう? 何せ、この店のマスターは気まぐれですから。お客様に等価以上を与える事もあるのかもしれないわよ」




