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過去と現在における常連さんの話をしよう

「なあ、下らないとは思わないか?」

「君が何に対してそんなに憤っているのか、僕にはさっぱり分からないね」

「だって、そうだろう? これはまぎれもなく、ルールを逸脱した行為だ」

「だとして、それが君にとって、どういった不利益を生むんだい?」

「……理解しろよ」

「簡単に出来るようなら、こんな会話は続けてないさ」

「あたしは歪なものが嫌いなんだ。世界に対しても、世間に対しても」

「それが君の美徳で、君の信念だ。まさか、いまさらそれを僕に押し付けようとでも?」

「ハッ、それこそ失笑もののセリフじゃないか。あたしとあなたは平行線、そんな事は、とうの昔に決着済みよ」

「なら、僕の生き方に難癖をつけるのも、これ以上、僕に付きまとうのも止めないかい?」

「自惚れもここまで来れば上等だ。あたしは偶々この店を訪れて、偶然に知り合いと相席した。ただ、それだけの話よ」

「それがもしも、僕にとっての苦痛なんだとしたら?」

「いいえ、そうはあなたは思っていない。だって、あたしには分かってしまうんだから」

「自惚れが過ぎるのは君の方だと思うんだけどね。……あながち、間違ってないのも悔しいところだ」

「ほら見たことか、あなたは結局歪なままで、あたしという理解者との会話に悦を感じてしまっている」

「人間には相性ってものがあるのは間違いない。そういう観点からのみで言うんなら、まさしく君と僕は最高のパートナーなのかもしれないな」

「告解じみた自白をありがとう。だから私はあなたが嫌いになれないの」

「でも、君との会話には色がない。……ようは、とっても疲れてしまうんだよ」

「だからこの店に入り浸ってるの? あたしという理解者を放っておいてまで」

「人聞きの悪い事を言わないで欲しい。僕と君とは終わった話だ。それに……」

「理解者だからこそ疲れ果て、理解しすぎるからこそ目障りにも感じてしまう」

「まさにその通りだね。僕と君は最高のパートナーだったのかもしれない。けれども、そこは互い譲れなかった」

「……楽しい会話ね。久しぶりに堪能できたわ」

「もう行くのかい?」

「ええ、今はとっても気分がいいの。……だから、今日はここでさようなら」


「ねぇ、あの方はどこのどなた様なのかしら?」

「うん? ああ、マスターが気にする必要はないよ。古い知り合いで、たまたま偶然出会っただけだ」

「それにしては、随分と楽しそうに会話をしていたようだけど……」


「ははっ、マスターにもそう見えたかい? でも、それはきっとこの会話以上に実りのあるものじゃなかったんだよ。僕は、こうしてここで寛ぐひと時が、とっても好きな人間なんだからね」

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