表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/66

過去と今ともしもについて話をしよう

「あの頃に戻りたい……貴方、そう思った事はないかしら」

「別段、珍しいことじゃない。誰にだってやり直したい過去の一つや二つは……」

「そうじゃないの。私が言いたいのは、過去の自分に今の自分がなりたいかって話なのよ」

「それは……また難しい質問だね」

「大人になったからこそ出来る様になった事は多いわ。でも……」

「大人だからこそ、躊躇してしまう事象が存在してしまう」

「そう、例えば、子供の頃なら飛び込めた川も、今ではとてもじゃないけど飛び込めない」

「子供の頃なら変えた駄菓子も、今では一つじゃ買いにくい」

「知識や経験っていうのは大切よ。でも、知らない方が良かったって事も多いと思うの」

「今や僕達にとって『見栄』はつきものだからね。外聞も考慮しないといけない」

「それならいっその事、あの頃に戻れたらって……考えてしまうのよ」

「うん。その気持ちは分からなくもない。けど、僕はそれを全面的に否定させて貰う」

「……何でよ」

「要は天秤の問題なんだよ。大人になって失くしたものがあれば、大人になって得たものもある」

「それを言いだしたらキリがないわ。だって、大人の方が圧倒的に知識も経験もあるんですもの」

「そうだろ? だから、天秤の針がどちらに傾くかなんて事は考えるまでもない」

「嫌な考え方だわ。浪曼の欠片もないじゃない」

「夢見るのは大人も同じ。ただ、それが具体的になっただけで、僕等の夢は重くなる」

「行動に制限をかけるのは自分。でも、その枷を外してしまえば、大人は大人じゃなくなってしまう」

「悲しい話だけれど、それが今ある現実だ」

「……ねえ、そう言う割には、どうしてそんなに笑っているのかしら」

「いや、他意はないよ。マスターのお転婆盛りを想像してたら、つい……ね」

「馬鹿ね、子供なんてそんなものよ。……貴方の方こそ、今とは違って、素直で真面目な人間だったのかしら」

「何だい? その悲しいものを見る様な視線は」

「ええ、想像するだけで泣けてくるわね。どうしてここまで、ひねくれてしまったのかしら……」

「……なら、マスター。その子供時代の僕が、そのままこの店の客として現れたらどうする?」


「決まってるじゃない。珈琲一杯を餌に、みっちりと今までの話を聞かせてあげるわ。……それこそ、終わるまでは何回だって来てもらうんですからね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ