雨の日にはしっとりと晴れた日の話をしよう
「小降りの雨も、本降りの雨も、止んでしまえば晴天が待つだけだ」
「文学的な表現ね。嫌いじゃないわよ」
「でもね。僕は雨のことを忘れない。だって悔しいと思わないかい?」
「ごめんなさい。私にはまったく理解できないわ」
「例えばそうだね。雨が降れば止んで欲しいと願う人が大勢いる」
「それはそうよ。そもそも傘をさすのが鬱陶しいじゃない」
「それには僕も同感だ。まあ、たまには雨露に濡れるのも悪くないとは思うけどね」
「あら、ずいぶんロマンチストを気取るじゃない。似合わないセリフは口にするものじゃないわ」
「酷い名誉毀損だ。別に格好をつけたかった訳じゃないよ。これは紛れもなく僕の本音だ」
「いいから続けなさいな。別にいまさら取り繕わなくても結構よ」
「意味深な発言をしてくれるね。見透かされたようで悔しいよ」
「ふふっ、これで少しは私の気持ちも理解出来たかしら。やられっぱなしは性に合いませんもの」
「……いい笑顔だね。思わず見蕩れてしまったよ」
「あら、有難う。でも、その程度で浮かれるほど私は少女じゃないわよ」
「勿論、それは百も承知しているよ。だからこそ、たまに見せる笑顔がとても貴重に感じるんだろうね」
「ホント、ユーモアのある人で助かるわ。これならもっと苦めの飲み物を出しても許してくれそうね」
「いや、物理的な行動はどうかと思うね。お世辞にもその笑顔は無邪気に見えない」
「そうね。でもたまにはそんな事があっても良いと思わない? いつだって店側が不利だなんていい迷惑だわ」
「……まさにその通りだと思う。これも以心伝心ってやつなのかな?」
「どうしたの? いきなり嬉しそうな顔をして」
「僕は雨の事を忘れない。だって、雨宿りは時にとんでもない幸運を導く事もあるんだからね」
「何よ、その意味深な言い方は」
「僕がこの店に入ったのは突然の雨のおかげなんだよ。だから、たまにはそんな日があっても良いと思うんだ」




