表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/66

大切な言葉と忘れられない思い出について話をしよう

「記憶っていうのは曖昧なものだね」

「それはそうよ。逐一全部覚えてなんていられませんもの」

「無意識に不必要なものを選別し、無意識のうちに、それを忘却の彼方へと葬り去る」

「あら、意外と詩的な発言をするじゃない」

「ありがとう。気に入ってもらえて何よりだ」

「でも、それって悲しいことだとは思わない? 全部が全部無意識なんだもの。私にだって選ぶ権利はあると思うの」

「マスターは無意識を他人と見なすのかい?」

「だって、それって私じゃない私が決めたってことでしょう? そんな人、私だと認めるわけにはいかないわよ」

「可能なら辞書でも引いて欲しいところだけど……」

「嫌よ。そんなの、何だか詐欺みたいじゃない。誰かの索引を真に受けるなんてまっぴらゴメンだわ」

「独自思想に独自理論。マスターは典型的な厄介さんだ」

「私のことはどうだって良いのよ。それに、それを言いだしたら貴方の方がよっぽど奇人変人じゃない」

「ある程度近しい人間の評価なんて、得てしてそういうものだと思うよ。そう考えれば、奇人変人扱いも悪くはないね」

「貴方。残念ながら本物の奇人変人みたいね」

「何だい? そんな呆れた様な顔をして」

「もういいわ。話を戻しましょう。それで、何の話だったかしら?」

「その前に、まずはお替りをお願いしたいな。挽きたてを、濃いめでお願いするよ」

「あら、もう飲んでしまったの? まあいいわ。ちょっと待ちなさいな」

「流石はマスター。今の注文で、よくオーダーを通せたものだ」

「? 何を言っているのかしら?」

「記憶っていうのは不自由なものだね。それでも、どうしても忘れられない思い出というのも、確かにそこには存在する」

「いよいよ不明瞭なことを口にしだしたわね。いったいどうしたっていうのよ」

「マスターは覚えているかな? 僕がこの店に初めて来た時のことだ」

「あのねぇ。言っておきますけれど、これでもお客様は多い方なのよ。いちいちそんなこと……」


「暖かい飲み物を。それと、甘めのケーキをひとつお願いします」

「……お客様、そちらにメニューがありますので、どうぞそちらからお選びくださいませ」


「光栄だね」

「黙りなさい。ほら、新しいのが入ったわよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ