歴史の重みと伝統について話をしよう
「格式の高さを声高にうたう人は、あまり好みのタイプの人間じゃないね」
「それは伝統芸能への批判と受け取っても構わないのかしら」
「僕が言っているのは、それとは少し意味が異なる。積み重ねられた歴史は大切にするべきだ」
「また小難しい事を言い出したわね。それならいったい、何が不満だって言うのよ」
「以前にも話したと思うけれど、人それぞれ感じる『正しさ』といった概念は、その日その場所で大きく変化する」
「ええ。今となっては懐かしい話ね」
「だからね。歴史に刻まれた重みに胡座をかくわけではなく、歴史を上書きするほどに邁進を繰り返す人に、僕は途轍もなく惹かれるんだ」
「単なる努力家という訳ではなく、歴史を推進剤に、新たな歴史を創造する」
「あらためて言葉にされると、どこぞのゲームの紹介文に使えそうだね」
「黙りなさいな。貴方の言い分を分かりやすい言葉にしてみただけじゃない」
「それはお優しいことで。さあ、それでマスターはこの考えについてどう思う?」
「私? そうね、私は別にそこまで深く考えた事はないのかもしれない。ただ、、、」
「どうしたんだい? 随分と歯切れの悪い言い方をするじゃないか」
「ただ、私は、そういった小難しい理論なんてなくても、日々を邁進しているのなら、それで良いんじゃないのかと思うのだけれど」
「・・・マスターは、本当に誠実な人間だと思うよ」
「あら、何だか馬鹿にされている様な気がするのは気のせいかしら?」
「滅相もない。僕がマスターの事を馬鹿にするなんて、未来永劫そんな日が訪れる事はないだろうね」
「ほら、やっぱり巫山戯てるじゃない。何を大げさに、そんな持って回った様な言い方を」
「別に大げさなんかじゃないさ。ただ、他に適当な表現方法が見つからなかっただけだ」
「ええ、ええ、好きな様に言ってなさいな。貴方の語彙力なら、さぞかし色んな言葉が思いついたでしょうに」
「光栄だね。マスターに褒められると、天にも昇る様な気分だ」
「・・・反省の色は無しという事ね。さて、どうしてくれましょうか」
「おっと、この辺で本題に戻った方が良さそうだ。つまり、僕が何を言いたいのかというとね」
「ちょっと待ちなさいな。その前に、丁度、新作のブレンドが出来上がった頃合いだわ。試してみる気はないかしら?」
「僕がその誘惑に抗えるとでも? 頼まれなくてもお願いするところだ。それで、いったいどんなブレンドなんだい?」
「そうね。伝統的なブレンドに、ほんの少しだけ私なりの改良を加えた、極上の一杯ってところかしら」
「・・・それはまた、随分と意味深なブレンドになっていそうだね」




