継続する姿勢と打ち込む姿勢についての話をしよう
「継続は力なりって言うじゃない。でもそれって傲慢だとは思わないかしら?」
「僕はそうは思わないけどね。日々を積み重ねる事によって、僕達は前に進む事が出来る」
「私が言いたいのはそういう事じゃないわよ。じゃあ貴方は、その継続が惰性でも構わないって言うのかしら?」
「ああ、なるほど。ようやくマスターの言いたい事が理解出来たよ」
「やる気のない人間が一年を通して継続するより、やる気のある人間が一日を集中する方が、私にとっては十分に価値のある事だと思うの」
「それはその人が打ち込む物事にもよる。何とも肯定し難い話だ」
「肯定じゃなくて否定よ。継続していれば全てが力になるだなんて、妄言も甚だしいわ」
「まあ、確かにマスターの言っている事には一理ある。世の中には無駄に年を重ねただけの人間も多いからね」
「そう。それでそんな人に限って、年の功を笠に、あれこれ無茶苦茶な要望を押し付けてくるのよ」
「一日の重みは人それぞれだ。年の功という言葉も、一概には正しいとは言い切れない」
「あら、珍しく意見が一致したわね」
「僕は持論を口にしただけだよ。まあ、これが一般論かどうかは保証出来ないけれどね」
「不思議なものね。そう言われてしまうと、一気に自信が無くなってしまうわ」
「マスターの僕に対する評価はいつも辛口だ。しかもそれが、今日は格別に喉を突いてくる」
「あら、それは失礼致しました。よろしければ甘いものでもお出ししましょうか?」
「これはまた商売上手とは程遠い勧め方だね。思わず注文しそうになってしまったじゃないか」
「それは残念。今度からは、もう少し苦味の効いた飲み物をご用意させて貰おうかしら」
「ははっ。それはそれで堪能できそうな気もするけどね」
「そうやって好きなだけ笑ってなさいな。今に後悔させてあげますから」
「おっと、これ以上はヤブ蛇だったかな。それじゃあ、名残惜しいけれど話を元に戻すとしよう」
「さあ、今日はいったいどんな屁理屈を聞かせてくれるのかしら」
「マスターが言いたいのは、つまりはこういう事だ。無駄に年を重ねただけでは、何も得る物は無い。日々精進を重ねたからこそ、個人としての力は身につく」
「概ねそれで問題ないわね」
「でも、それは見方を変えるとこんな風にも言い換える事が出来るんだ。『客単価の安い人間が何年も通い続けてくれるより、客単価の高い人間が一日でも通ってくれた方が、私は嬉しい』と」
「暴論過ぎて言葉も出ないわね。いますぐ訂正しなさいな」
「うん。マスターなら、きっとそう言ってくれると信じていたよ」
「貴方、またそんな減らず口を。はぁ~。もう好きにしなさいな。貴方、私を苛めるのがそんなに楽しいのかしら」
「残念ながら、それこそ暴論だね。僕ほどマスターとの会話を楽しんでいる常連なんて、他にはきっといないだろうさ」




