自己評価と都合の良い解釈について話してみよう
「年忘れ、マスターはこの言葉についてどう思う?」
「どう思うも何も、深く考えたことなんて一度も無いわ。強いてあげるなら、退屈な番組の枕詞ってところかしら」
「これは意外だね。マスターがTVを見ているなんて想像もしてなかったよ」
「あら、それは侮辱と受け取ってもいいのかしら」
「そうは言いながらもTVを見ていない事については否定しないね」
「見透かさないでちょうだい。これでも趣味は洋画鑑賞なの」
「自分でこれでもって言ってるあたり、随分と罪深い発言だ」
「・・・うるさいお客様ね。お会計願おうかしら」
「おっと、これ以上は深追いしないほうが良さそうだ」
「貴方はいつも一言多いのよ。たまには紳士らしく受け流しなさいな」
「それは聞き流せないな。僕は自分がそこまで口数が多い方だとは思ってないよ」
「ええ、確かに口数は多くないわね。でも思い返してご覧なさい。貴方の言葉はいつも無駄に確信をつくの」
「それがマスターをイラつかせてると?」
「イラつくというよりも、何だか腑に落ちない感じね。貴方、どうしてそこまで他人の事情を読み当てられるの?」
「意識して読み当ててる訳じゃないんだけどね。ただ単に、僕は人一倍、他人の機嫌や気分を気にしているだけだよ」
「あら、そこまで他人の顔色を伺いながら生きているようには到底見えないわ」
「他人の顔色を伺うだなんて殊勝な事は考えちゃいないよ。言葉にするならそうだね、『想像力豊かな臆病者』ってのはどうだろう?」
「それを言うなら『自己陶酔が過ぎた傾奇者』よ。自己分析はしっかりとしなさいな」
「手厳しいね。そこまで僕は変人かい?それなら言葉を返すようだけれど、マスターは自分の事をどこまで理解出来ているのかな?」
「私?そうね、好き好んで自分を評価しようとは思わないけれど、強いて言うなら『陽気で気さくな喫茶店の美人マスター』ってところかしら」
「ははっ、巫山戯すぎだね。それは冗談のつもりかな?マスターのどこに『陽気』や『気さく』なんて要素があるのさ」
「ふふっ、ええ、まったくね。自分でも今の評価はどうかと思うわ」
「今日も楽しいひと時だったよ。ごちそうさま、マスター」
「あら、もうお帰り?」
「ああ、年の瀬になると、流石にあまりノンビリはしていられないしね」
「そう。知っているとは思うけれど、今年は今日が最後の営業日よ」
「わかってるよ。それじゃあマスター、良い年の瀬を」
「ええ、貴方の方こそ」
「それにしてもあの人、最後まで『美人マスター』って言葉には触れなかったわね。あらあら、こんな事で浮かれているのかしら、まったく、私にも困ったものね」




