言葉にすると野暮、慎ましく過ごす今日の日について話そう
「こんばんは」
「あら、ごめんなさい。もう閉店の時間なの、、、って貴方、どうしたのこんな時間に」
「いやあ、帰りがてら、珈琲でも飲んで帰ろうかなと思ったんだけど。どうやら間に合わなかったようだね」
「ほんと、いつもならこんな時間には来ないでしょうに。よっぽど運の無い人ね」
「それを言われると辛いな。確かに、営業時間を見ていなかった僕にも非がある」
「あら、その言い方だとまるで、私にも落ち度があるみたいな言い方ね」
「ああ、そりゃあ文句の一つも言いたくなるよ、何せ、入口には『OPEN』のプラカードが掛かってたんだから」
「それは、、、まあ確かに裏返すのを忘れていましたけれど」
「そこまで困った顔をしなくても大丈夫だよ。僕は自分の考えを人に押し付けるのは好きじゃないからね。ましてや、こんな日は特にだ」
「ちょっと待ちなさいな。謝罪の言葉も言わせないつもり?それはマスターとしての私の沽券に関わるわ」
「変なところにプロ意識を持ち込むね。でも、それがマスターの良いところだと思う」
「黙りなさい。それよりも、どうしたものかしら。これから珈琲を煎れるとなると時間が掛かりすぎるわね」
「構わないよ。僕としてもマスターのプライベートを削るのは忍びない。早々に退散させてもらうつもりだ」
「・・・仕方がない人。ちょっとそこに座りなさい」
「どうしたんだい?苦虫を噛み潰したような顔をしているけど」
「ええ、ええ。回りくどい言い方で誤魔化そうったって、そうはいかないわよ。まったく、困った人ね」
「流石はマスター。お目が高いね」
「うるさいわよ。とっとと要件を言いなさい。どうせ、さっきから背中に隠してある物が関係しているんでしょう?」
「うん。じゃあ、お言葉に甘えて。これは、僕から日頃お世話になっているマスターへの贈り物だ」
「お世話になってるって、、、それは、私の台詞じゃないかしら」
「それは違うね。僕がこの店の客だからといっても、僕がマスターに世話になっているのは事実だ」
「そう、あいにく私は何も用意してないわよ。前にも言ったけど、私は聖なる夜なんて、、、」
「そこまでにしよう。これは僕からマスターへの日頃の感謝を表したプレゼントだ。今日が何の日かだなんて、そんな些細な事は関係ない」
「・・・まったく、よくそんな事が言えるわね」
「少しは見直してくれたかい?」
「見直すもなにも、鬱陶しいったらないわね。似合わない事はするものじゃないわ」
「それは失礼。それじゃあ僕は帰るとするよ」
「これで満足だって言うの?つくづく愚かな人ね。そんな生き方じゃあ、損をするわよ」
「たまにはこんな日もあっていいと思うよ。それではマスター、素敵な夜を」
「ふんっ。珈琲も頼まずに帰ったお客様なんて貴方が初めて。まあ、悪い気はしませんけれど」




