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第2話 人為らざる者とマスター

 青年は、町長の屋敷を抜けた後、休むことなく町の外に出ようと門へ向かう。

 そこで青年を呼び止める声が聞こえる。青年にとって最も聞き慣れた声、青年はすぐに声のした方向を振り向き嫌そうな顔をする。

「ちょっと、なーんで嫌そうな顔するかな、折角この私がアンタの為にこれ持って来てやったというのに」

 そういい、彼女は青年に中に色々な物が入ったバックを投げ渡す。

「そりゃあ、幼馴染みがこんなガサツで上から目線じゃあ世の男はのぅ、まぁありがとうよ…と言っても2日も掛からない用事だからかすぐ帰って来れるさ」

 青年はバックを受け取り中身を確認する。

「あー、はいそうですか、ガサツで上から目線の皆の望む幼馴染みじゃなくてすみませんねー…んで、今回は何を頼まれたの?」

「隣町に行って荷物を受け取って欲しいのと、隣町の代表当てに手紙を渡して欲しいってさ」

 青年はバックから布に包まれた箱を取りだし嬉しそうに喋る。

「何かパシりと変わらないわねぇ、それで連合に太刀打ち出来るのかしら、あっその弁当はちゃんと食いなさいよ、アンタ好き嫌い多いから」

「ハイハイ、アンタの母さんの作る料理は美味いからな、残さず食えるからな!」

 青年は弁当箱をバックにしまい、幼馴染みの方に顔を向け笑顔を見せる。

「んじゃ、行ってくるよ!アリシィ!」

 青年はそう言い門へと駆け出していく。

 そして、その背中に向かい、幼馴染みアリシィも声をかける。

「ん、行ってこい、レイグス」

 そして、最後の一言は聞こえない様に小さく呟く。

「その弁当、今回は私が作ったから…」



「まっずうぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」

 隣町へと続く街道で切り株に座った青年レイグスは声を上げた。

 数時間前、門を通り町を抜けたレイグスは、そのまま街道へと走って行った、街道と言っても道と草むらの境界に石が敷き詰められただけの道であり左右には

 草原が広がっている。途中に誰も住んでない小屋等があり、レイグスのいた町とこれから向かう町へと向かう者を繋ぐ一つの休憩所となっている。

 レイグスは休憩所に付いた後、その休憩所の近くにある切り株に座り、弁当箱を開け、現在に至る。

「あり得ねぇ、これアリシィの母さんの作った弁当じゃねぇ…アリシィの作った弁当だ…残念、俺の弁当はここで終わってしまった!おにぎりの中に切っただけの大根が入っていた事で!」

 レイグスはその後、おにぎりの米だけを食い、生の大根は箱に戻ししばらく休憩する事にした。

 休んでる途中、目的の町から来た馬車に乗る商人と出会う、レイグスと商人はそれぞれの表向きの目的を話し商人はレイグスの進んできた道へと行った。

 レイグスは馬車の中にある荷物には恐らく、天使や悪魔に対抗する為の武器も隠れてるのだろうと思い、商人の後ろ姿を見ていた。

 その後、数分した後にレイグスは休憩を終え、休憩所を後にした。

 休憩所を越えれば、目的の町まで半分程である。レイグスはそのまま町へと一直線に走ろうとした。しかし、そのレイグスの前を異形の物が立ち塞がった。

「おっと…来たか」

 レイグスは腰に装着していた剣を構える。目の前には巨大な蟷螂の姿をした怪物、鎌状の腕を上げ威嚇する様な仕草をしている。

 この様なモンスターに出会っても対処出来る様、人間は最低限の武器を持つことは許容されている。しかし、天使と悪魔が禁じている武器の違いは「天使と悪魔には傷一つつけれない」である。

 レイグスが手にしてる剣は、「天使と悪魔を傷つけれる」武器である。人間は秘密裏にこの「天使と悪魔を傷つけれる武器」を作り天使と悪魔の管理から解き放たれようとしている。

「さてと、一瞬で決めるぞ」

 レイグスはそう言い、韋駄天の速さで駆け抜け化け蟷螂の足を切り落とす。化け蟷螂は悲鳴の様な声をあげ、地に伏せるがすぐさま羽を羽ばたかせレイグスへと飛びかかる。その刹那、レイグスは右腕を付きだし、強くいい放つ

「フレア!!」

 すると、レイグスの右腕から火炎の弾が飛び出し唸りをあげて化け蟷螂へと放たれる。化け蟷螂はそれに直撃し、火炎の弾は爆発を起こし化け蟷螂を跡形もなく燃やし尽くした。

 人間がモンスターから身を守る為の手段として、武器とは別に魔法がある。しかしこの魔法もモンスターに対しては効果があるが、天使と悪魔には効果が無い。

「よし、片付いたな」

 レイグスは化け蟷螂の残骸が無い事を確認し、目的の町へと進んで言った。


 歩き出して数時間後、ようやく目的の町の門が見えた。レイグスは門を見るや否や、颯爽と駆け出し門へと走って言った。

 門へと付くとそこには見張りの男が一人とこれから何処かへ向かうであろう者達、この町へ入る者とが行き来していた。レイグスは見張りの男に話し掛け、使いでこの町へ来た事を伝えると、見張りの男は笑顔でこの町のおおよその構造、この町の代表の住む家の場所を紙に簡潔に書いて教えてくれた。レイグスはその地図を頼りに、代表の住む家へと向かった。

 ライネの町と呼ばれ、各町との交易が盛んなこの町は人口が多い事で知られており、所々に人間を監視する天使の姿が見える。この天使の存在除けば普通に栄えている平和な町である。

 レイグスは初めて来る町と慣れない混雑に戸惑いながらも、地図を見ながら、人に聞きながら、天使に見つからぬ様にと代表の住む家へと向かって行った。

 数分ほど歩き、地図に記してある×印、代表の家の前へとレイグスは来た。そしてドアをノックし、扉があくのを待つ

「ハイハイ、お待ちを…」

 声が聞こえ、扉が開く、そこには町の代表者であろう老人の姿があった。

「ええと、どちら様かな?」

 レイグスは自分の町の町長からの使いで来た事と、手紙を渡しに来た事を伝えた。

 老人はあぁ、と思い出したかの様な声を出しレイグスを家に招き入れた。


「フーム…」

 レイグスは家に入った後、代表者の老人に手紙を渡し背負っている剣を机に置き、老人に見せる。老人は眉間にシワを寄せ、手紙と剣を交互に見る。

「見れば見るほどワシ等が普段使ってる武器と変わらぬが…これで神魔連合の者を倒せると…そしてワシにこの武器の設計図を広めろと」

 老人はそう言い、レイグスの顔を見る、手紙には天使と悪魔に対抗出来る武器の設計図と素材を広めて欲しいと書いてあった。

 老人は複雑な顔で見つめるがレイグスは自信溢れる勢いで喋る。

「ええ、実際にこの剣は天使に対して傷を負わせ殺す事も出来ました。そしてその設計図と素材を各町に交易を使用して広めて欲しいと俺の町の町長が」

 レイグスがそう言うと、老人は笑い出した、そして渡された手紙と設計図を懐にしまった。

「あのお嬢さんが考える事はワシには理解出来ん、神魔連合なぞワシ等にはどうにも出来んと思っていたし逆らわん方が良いと思っているが…生憎、ワシの町の若いのも神魔連合からの解放を望んでいる…お主等若いもんがそれを望むのなら、やってみようじゃないか」

 老人はそう言うとベルを鳴らし従者を呼びつけ、レイグスには聞き取れない声で話し従者を外に出した。そして、机に座り、ペンを取りだし紙に何かを書き始める。レイグスは暫くそれを見ていたが暫くすると老人は書き終えて、レイグスの方に向かい紙を渡す。

「そちらの町のお嬢さんにこの手紙を、町を代表してワシがそのお手伝いをしてあげましょう」

「ありがとうございます!」

 レイグスは渡された手紙を受け取り、深々と礼をする。そして家を出ようとするが老人に呼び止められる。

「折角来たんだ、この町を見ていくと良い、今から帰ると日が沈むし夜は危ない、何ならワシの家に泊まりなさい。この剣を隠す為にも」

 レイグスは少し戸惑ったが確かに老人の言う通り、夜は危険が多く今から行っても間に合いそうにない。それにこの剣を天使達に見つからない様にしてくれるのも有難い、そして何よりもこの町に来るまでに何時間もかかったから疲労が溜まっていた。そんな訳でレイグスは町の代表者の老人のご厚意に甘える事にしたのであった。


老人の家を出たレイグスは、少し町を見ていた。夕刻でも相変わらず賑やかなこの町は、レイグスの住む町と違いレイグスを少し緊張させる。レイグスは、人混みに慣れるまで色んな所を見て回った。

日用品から家具、又は其れを作り、修理する店。食料品を売る店。料理店。レイグスの住む町にもあるがやはり人が多く訪れる為か、規模も違う。

「ふぅ…人混みは慣れないな…」

大体の所を見終えたレイグスは人混みから離れ、一息付く。そして少し休もうとベンチへ腰かけようとした時、視界の端に映った小さな店に目がいく、いや、正しくはその店に入った黒い人ならざる者に目がいった。

「悪魔…?いや、そんな訳が」

レイグスは悪魔かと思ったが其れをすぐ否定した。何故なら悪魔は天使と違い人間の元に訪れる事はまずない、実質人間の管理は大半が天使によるものである。その悪魔が人前に出る事は余程の事が起きた時にしかない。

しかし、今見たのはその余程の事だとしたら…。そんな不安がレイグスを店に向かわせる。しかし、いざというときの剣は、老人の家に置いてきている。それでもレイグスは店の前に立つ、看板を見ると「食堂 ヨリミチ」と書かれてある。レイグスは静かにドアを開ける。しかし、カランカランと客の来訪を告げる音がなるとレイグスの不安は一瞬で消え去り、あり得ない光景が広がっていた。

「おや、いらっしゃい、この時間に人間のお客とは珍しいね、アルヴァさん」

人間であるマスターであろう人がそう言い、ある方向に視線を送るとそこにはさっきの黒い人為らざる者、アルヴァと呼ばれる者が隣にレイグスと同じ位の年齢の少女を座らせ、マスターを見ていた。

「なんだよう、まるで俺様がいると客が来ないみたいな言い方は、まぁ事実だがな~っても、元から客来ないだろうこの店」

そう言い、アルヴァと呼ばれる者は笑いながら隣に座る少女の頭を鋭い爪の生えた手で撫でる。少女は不服そうな顔をしているが抵抗はしない。

「ハッハッハッ、確かに客は元から余り来ないな、さぁ、お客様、席へどうぞ」

そう言って、マスターはレイグスを席へと案内しメニュー表と水を渡す。

「はい…」

レイグスは予想外の光景と状況が読み込めず、困惑しながらマスターの案内通りに席へ座る。人間と人為らざる者が同じ場所で笑っている。それは本来有り得ない物であり、何が起きているのか全くもってレイグスには理解出来なかった。

「お客さん、アルヴァに困惑してるよ」

人為らざる者、アルヴァを呼び捨てにしたのは頭を撫でられている少女であった。服装からしてこの店のウェイトレスだろう。

「そうだろうなぁ、普通じゃあこんなのいたら困惑するもんなぁ今の人間は」

そう言ったのは、アルヴァ、彼はレイグスの方を向き話す。見れば見るほどに凶悪な外見で肩に無数の長い刺、龍と悪魔のが合わさった様な8本の刺か角を生やし、赤い鋭い牙を出し笑顔の様な顔で此方を見る。撫どう見ても獲物を見つけ狂喜の笑みを浮かべている悪魔にしか見えない。

「俺様はアルヴァトール、アルヴァと呼ばれている。因みに俺様はお前ら人間の嫌いな天使とか悪魔とかそう言うのではない、よろしくな」

見た目に反して友好的な会話をするアルヴァ、レイグスも軽く自己紹介をするが彼の最初の言葉が強く気にかかった。

「天使でも悪魔でもない」

レイグスはその言葉が気になった、どういう事だ…と。

なら彼はモンスターか、しかしモンスターの中で人と友好的な会話をする事が出来る者はいないはず…そもそも彼はどうやってあの外見でこの町に入れたんだ…?

そう色々と考えているとマスターが来て、小さく囁いた。

「彼が何者かは私にもわかりません、しかし、彼は少なくとも天使や悪魔ではなく、人間の味方だそうです。余り多くは言ってくれませんが、ご注文はお決まりで?」

レイグスはその言葉に戸惑っていたが、すぐにこう言った。

「この店のオススメを」

かしこまりました、と言いマスターは調理場へと向かう。そしてレイグスは人為らざる者アルヴァトールのいる方に視線を向ける。そこには以前としてウェイトレスを撫でる黒い人為らざる者がいた。

「マスター!この娘貰っていいー?」

アルヴァはそう言いウェイトレスの少女を抱き上げる。

「ギャー!はなせーー!」

流石の少女もこれには幾らか抵抗する、しかしマスターは気にも止めることなく調理をしながら笑う。

「ハッハッハッ、そうですねえ、その娘が働かなくなったら無償であげましょう」

「マスターの人でなし!!人身売買!」

少女は怒りながらじたばたと暴れる。アルヴァはその少女を下ろし、調理場に向かわせる。

「ハハハ、だってよ、ミイ、俺様に貰われてセックスとかされたくなきゃマスター手伝ってきな」

「有難いねぇアルヴァさん、こうでもしないと働いてくれませんからうちのウェイトレスは」

マスターとアルヴァは、互いに笑う。まるでこれがいつもの事の様に。

レイグスはそれが、恐らく一生忘れられない光景になった。

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