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訪雲の記  作者: 万々万々
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第6話 滅亡

東へ向かっていた平八郎は、ある男に出くわした。林太郎といた際に、段八と組んでいた男である。

「おっと、これは先ほどの。どうだい調子は。」

男は逃げも隠れもしなかった。

「今から貴様を殺す。名を名乗れ。」

平八郎は顔を下に向けながら言った。

「紹介ねえ。まあ、してやるか。俺の名は加賀止吉(かがとめきち)。」

「加賀……?さっきの男の兄弟か……?」

「お、会ったのかい?そうなんだよ、実は双子でねえ。ま、全然似てないんだけどさ。」

正吉と止吉は全然似ていなかった、しかし、声はよく聞けば似ている。

「兄上にあったのなら、兄上は殺しちゃったかな?」

「ああ、その通りだ。」

「ほほう、あの豪腕をどう倒したのかは知らんが、俺はどうなるかなあ?」

正吉と止吉は姿こそ似ていなかったが、挑発による腹の立ち方は全く同じだった。

「さあ、来いよ日の者……そういえば俺だけしか名乗ってないぜ。お前も名乗れよ。遺言は聞く優しさ、俺は持ってるんだぜ。」

「我が名は平八郎。友の仇の為、死んでもらう。」

「さっきも似たようなこと聞いたぜ。安心しな、次は俺も逃げねえよ。」

平八郎は止吉の目を見た。止吉の動きは完全に停止した。平八郎は走りながら抜刀した。平八郎は大きく刀を構えた。

「加賀止吉、覚悟!」

平八郎は刀を振ろうとしたが、力が入らない。それどころか、身体が一切動かないのだ。まるで自分もこの技に引っかかったように。

膠着状態が2分続いた頃、風が吹き、一つの風呂敷が飛び、丁度2人の視界の間に入った。金縛り状態は解け、平八郎は刀を振ったが、瞬時に頭を下げた止吉には当たらなかった。止吉は素早く後ろに下がった。

「危ねえ危ねえ。『(さる)』を持っていなかったら首を持っていかれるところだったわ。」

「やはり貴様も石を持っていたか。今の様子から察するに、相手を自分と同じ目に合わせる、といったところか。」

「惜しいね、だがあえて教えてやろう。『申』とは、相手の技をこの目で見ることによって、自分も使えてしまう最強の石だ。」

「なに?」

平八郎は内心焦っていた。『寅』による完全な勝利を、たった今潰されたからである。『寅』を使えない以上、普通に戦うしかない。相手の石の所有数、『申』による使える技の数が未知数ではあるが、平八郎が有利になることは、まずありえなかった。

「どうする平八郎とやら。大人しく殺されるかい?」

「大人しく死ぬぐらいなら、最初から参戦などしていない。」

「いい意気込みだなあ。殺すのが惜しいぜ。」

どうせ思案したところで結果は同じ。そう考えた平八郎は、刀を構え走った。

「まあ、そう熱くなるんじゃない。どうせ結果は同じだがな。」

平八郎は刀を振り下ろした。止吉も刀で抑えた。平八郎は止吉の腹を蹴った。止吉は仰向けに倒れ込んだ。平八郎は刀を止吉に突き刺そうとしたが、止吉は横に転がり刀を逃れた。そのまま平八郎は刀を横に振ったが、止吉は後ろに跳び、回避した。

「止吉と言ったか。中々の身軽さを持つ男よ。」

「ほめてもらえて光栄、だぜ。」

そう言った瞬間、止吉は前に倒れた。背中には刀が刺さっている。見ると、奥からが人が現れた。

「どんなに回避が器用な猿でも、どんなに仲間を憂いた武士でも、死ぬ瞬間は同じ。そうは思わんか、穂呂平八郎よ。」

現れたのは葉形覆三郎だった。こちらに向かって歩いてきている。平八郎は目を伏せた。

「関所の人間が何のようだ。まさか、助太刀とは言わないだろうな。」

「助太刀?ほう、面白いな。だが、俺は今より貴様の敵である。」

「なに?」

やがて葉形は倒れている止吉の横に来ると立ち止まった。

「葉形覆三郎、月の國側にて参戦いたす。」

「待て、関所の者よ。これは6対6の勝負であるぞ。加勢など許さん。」

「心配するな、俺の枠は作っておいた。今頃は鼠に貪られているであろう。」

「貴様、まさか月の者を殺したというのか。」

「いかにも。俺は正当な勝負を好むのでな。数は合わせる。」

「なぜ、関所の者が介入する?これは日と月、両国が覇権を争う戦いぞ。」

「愚かなものよ。まだ、そんなことを考えていたか。」

「なに?」

「日が勝とうと月が勝とうと、所詮口約束に過ぎん。ただの挑発に國を上げて戦争を起こそうとする者たちが、ただの口約束を守れると本気で思っているのか?」

「ならば貴様、なぜこの提案をした。元々貴様が言い出したことだろう。」

「簡単なことよ。人が死ぬところを見たかったのだ。」

「なに?」

「人は誰でも死ぬ。それは避けられぬ運命にある。その死を、人間はどう迎えるのか。この世界では、人の死に様の多様さに、美しさすら感じる。」

覆三郎は狂っている。そう、平八郎は思った。

「そして俺は我慢が出来なくなった。見ているだけでもこみ上げてくるこの感情、人を殺せばどれぐらいのものになるだろうかと。」

覆三郎は止吉の死体の方を向いた。

「無抵抗に死んでいく人間も美しいが、やはり最後まで足掻き続ける人間を殺してみたいと、俺の心がそう思っている。」

覆三郎は、こちらを見ながら静かに刀を抜いた。

「さて、準備はいいか日の者よ。最期まであがく人間を見てみたいのだ。」

「あがくのは残念ながら貴様の方だな。自分の最期に見とれるがいい。」

「いざっ!」

覆三郎は両手で握った刀を振ってきた。平八郎は刀で抑え、覆三郎と目を合わせた。

しかし、覆三郎の動きを封じることができなかった。

「驚いた顔をしているようだな。大方自分の石が使えないことを驚いているのだろう。」

平八郎は驚きを隠せない。心内が読まれたこともそうだが、なにより石が発動しない。鍔迫り合ったまま、覆三郎は言った。

「俺の石は『()』。この石以外の、直接所有者に関与する効力を打ち消すという、まさに正々堂々という俺にぴったりな石よ!」

「正々堂々だと?心身万全な状態で手負いと打ち合う時点で既に正々堂々ではない!」

「俺が言う正々堂々とは、1対1の戦いのことだ。それまでの傷病など、関係ない。」

「それを人は正々堂々とは言わぬ。ただの自己中心的考えよ」

覆三郎は平八郎の腹を蹴った。平八郎は、4メートルほど飛んだ。背中に痛みを感じた。

「自己中心的?人間は誰でもそうではないのか?」

平八郎は立ち上がった。

「人間は皆他者を思いやり行動する。それは善の心だ。」

「それは自分に惚れているだけだ。他者の為に行動する自分に酔っている。それを見た他人からの評価を気にしている。」

「そんなことはない。」

「それがあるんだな。人の心は完全なる善では形成されぬ。多かれ少なかれ、悪も持ち合わせている。それが自己中心的な考えである。打ち負かした相手を支配下に置くなど、悪の心そのものではないか。」

「正々堂々たる結果だ。文句はあるまい。」

「ほう、ならば仕方ないな。俺も今から正々堂々を貫く。覚悟せよ。」

覆三郎は刀を構え、走ってきた。いきなりの突進に、平八郎は対応が遅れた。覆三郎の刀は、平八郎の腹の貫いた。

「刀を刺す感触……、素晴らしい。これには興奮すら覚える。」

「覆……三郎……。」

平八郎は刀を落とした。今までの疲れと、腹に走る激痛のせいで刀を持つことはできなかった。

ふと、平八郎は向こうから音を立てずに歩いてくる人影が見えた。

「覆三郎よ……、人間は腹を貫かれただけでは死なぬらしいぞ……。」

背後に迫る人影に、覆三郎は気づかない。

「ほう、首を切り取られたいと。そういう遺言か。」

さらに人影は迫る。

「これは遺言ではない……。」

人影は大きく刀を振った。

平八郎は力を込めて言った。

「忠告である。」

人影の刀は覆三郎の首へと走り、首を宙へと飛ばした。平八郎は血が流れるのも気にせず、急いで刀を両手で抜いた。覆三郎は、正面に倒れた。

「助かったよ、」

平八郎は目の前にいる人影に目を合わせず言った。

「丙吉。」

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