第5話 真偽
東へと歩いていた登廊は、途中、誰にも会うことはなく東門へと着いた。
しかし、石には出会った。石に刻まれた文字は『丑』。自らの唾液や血液を他人に飲ませることによって相手を意のままに操れるらしいが、登廊の性格上、使いたくはないし、刀だけで充分だった。
東門へ来る際、誰にも会わなかったが、東門で初めて人と出会った。門に背を預け、腕を組んで顔は下を向いている。居眠りでもしているのだろう。登廊は静かに抜刀し、小走りで接近した。自然と足が早くなる。この様子だと完全に寝入っているようだ。刀を掴んでいる右手を大きく振りかぶり、男に向かって繰り出した。しかし、男はいきなり左手を上げ刀を掴んだ。刀は男の左手を切り落とすことはできない。登廊は力を込めたが、それ以上刃は進まなかった。
「どうだ、驚いたか?」
登廊は目の前にいる男がしゃべったことに驚いた。
「驚いてなんかいねえ、皮膚の硬い奴がいるなと思っただけだ。」
登廊は自分の中にある緊張をできるだけ隠して言った。
「大した強がりよ。己は今何もできぬのにな。」
「それはお前もだ、居眠り野郎。」
その男は登廊の刀を握りしめたまま登廊を蹴飛ばした。登廊は刀から手を離し、後ろに吹き飛んだ。男は素早く抜刀し、登廊の首もとへと刀を当てた。
「日の者は弱いくせに意地を張っているな、弱者の証よ。」
「黙れ!貴様等のような下劣な真似をする阿呆は、さっさと死ねばいい!」
「下劣?先に手をかけたのは貴様等であろう。月の國の子どもを連れ去り、過酷な労働環境に強いた上で用無しとあらばすぐさま殺し見せしめるというのを関所の者から聞いた。」
「はあ?日の者はそんなことはしねえ。下劣なのは貴様等の方だろうが。日の國に女を連れ去り、男どもは身体を貪り、用無しとあらば見せしめにしたあと殺すと関所の男が言っていたぞ。」
「馬鹿な。月の者はそんな卑劣なことはせん。俺は聞いたことすらない。」
「お前だけが知らぬことだろう。どのみち哀れよ。」
「待て。貴様の話が誠ならば、双方は何もしていないということにはならぬのか。関所の男、葉形覆三郎は嘘をついている可能性があるやも知れぬ。」
「月の者の言うことなど、信用できぬ。貴様の言うことが嘘偽りない発言だという証拠はどこにもない。」
「俺と共に関所へと直談判する気はないか。」
「ああ、ないね。」
「なら、致し方ないな。」
そう言うと、男は登廊の首もとの刀に力を入れた。登廊の首は力なく転がった。
「覚えておけ日の者。俺の名は月の者、秋夜豪七である。」
豪七は気になっていた。もしこの男の言うことが真実ならば、日、月、それぞれが全くを持って無駄な戦いをしていることになる。どういう理由かは不明だが、葉形覆三郎が嘘をついている可能性すらある。急いで仲間に、そして敵である日の者にも、このことを伝えねばならぬ、と豪七は中央に向かって走り出した。




