第3話 弱者
平八郎らと別れた番乃助と丙吉は、まっすぐ北へと向かっていた。
「なあ、丙吉。」
「なんですか、番乃助さん。」
「今頃、登廊はどこにいるかのう。」
「さあ……。」
興味のなさそうに丙吉は答えた。
「まあ登廊は元々腕が立つし、死ぬことはないだろうがな。」
顎に手を当てながら番乃助が言った。
「かもしれませんね。」
やはり丙吉は興味がないように答えた。
「静かに。」
「む。」
丙吉は何かを感じ取った。
「足音が聞こえます。これは……、正面右から来ます。」
「わかった。儂も服を脱いでおこう。」
そう言い、番乃助は服を脱いだ。
「刀だけは持っておいてください。」
「わかっておるよ。」
「そろそろ来ます。隠れておいてください。」
番乃助は、右にある家屋の隙に隠れた。
目の前の交差している地点の右から、男が現れた。
「おっと、そこにいるのは日の者かな?」
現れた男は陽気な声で訪ねた。
「いかにも。我は日の國の島丙吉と申す。そちらは。」
「おっと自己紹介が遅れて申し訳ない。俺は加賀正吉という者だ。以後、お見知り置きを。」
「以後?今から死ぬ者の名前を覚えるほど暇じゃないな。」
「ほう、それは失礼した。俺も間違えちまったぜ。今から死ぬ奴に以後なんてものはないもんな。」
「御託はいい、早く来いよ。」
「それならば望み通りに。」
正吉は、抜刀し走ってきた。丙吉も素早く抜刀し、少し後ろに下がった。こうすることで、丙吉と正吉が戦っている間に番乃助が背後から斬ることができる。
「後ろに下がっている保守的な思考じゃあ、俺には勝てないぜ!」
正吉の挑発はあるが、丙吉は動じない。
やがて正吉が番乃助が隠れている場所を通り過ぎようとしたとき、正吉は足を止めた。正吉は左を見た。そこには刀が落ちていた。正吉は歩み寄り、番乃助が見えているかのように剣を振りかざした。
「番乃助さん、逃げろ!」
丙吉が叫んだが、既に遅かった。正吉の刀は番乃助の肩を刻んだ。
「ぐああっ!」
番乃助が叫ぶと同時に姿を現した。
「やっぱりな~、ここにいると思ったぜ。全裸の老人だとは俺も思わなかったがな!」
丙吉が駆け寄るも先に、正吉は番乃助の首をはねた。
丙吉は正吉に斬りかかったが、鞘で防がれた。
「いいことを教えておいてやるぜ。俺の石は『卯』。一番近くにある石がわかるという優れものなんだよ。戦闘には役に立たないと思っていたが、まさかこんな形で活躍するとは予想外だったぜ。」
正吉は鞘で丙吉の刀を振り払った。丙吉は下がって身構えた。
「さっきとは違う下がり方だな。次は恐怖により下がったと見える。」
丙吉は心内を読まれているようだった。事実、下がったのは体勢を立て直すためではなく、先ほどまでの自信の喪失により、早く逃げ出したいという意識で無意識に下がっていた。
「どうした、来いよ。」
正吉と丙吉の力は互角。しかし目の前で仲間が無惨に殺され、それに自分を重ねると、とても動けなかった。
「ほらほら、大事な仲間が刻まれてもいいのかい?」
言いながら正吉は刀で番乃助を切り出した。腕や足、さらには内蔵すらもえぐり取っている。
「貴様、死者を愚弄する気か!」
「俺はそんな気はないんだけどねえ。誰かが怖くて動けないからこういう形で応援しているのさ。ああ、辛い。」
丙吉は怒り狂いそうだった。あの番乃助の一生の終わりがこんな形になるとは。
丙吉は覚悟を決めた。
「許さんぞ貴様ぁ!」
「許されなくても結構。貴様に許しを乞うぐらいなら、鶏と接吻した方が後味良さそうだぜ。」
丙吉は刀を構え、正吉に向かって走り出した。防がれないよう、刀を真っ直ぐにして突き刺そうとした。しかし、正吉は鞘で刀を上に弾き、がら空きになった胴体に刀を突き刺した。
「がっかりだなあ。日の者はなんでこんなに弱いのかなあ。」
「き……貴様……。」
「ほう、声はまだ出せるぐらい元気なのか。」
正吉は刀を引き抜いた。丙吉はそのまま倒れ込んだ。
「最後の屈辱を味あわせてやるよ。どうだい、腹の痛みは。」
丙吉は横になったまま動かない。
「死んだかな?やだねえ、日の者は弱くってさ。」
正吉は番乃助の死体に近寄り、胃を探していた。
「あーあー、どこに石があるかわかんねえや。死体とかあんまり触りたくねえんだよなあ……。」
正吉は死体を探っていたが、やがて諦めた。
「まあ、いいか。全裸になるのなんてごめんだしな。じゃあな、落ちこぼれの日の者たちよ。」




