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高梨ひふみの虐殺及び天使らの密談(1)

(浮かんでいる感覚がする)



「<赤銅色の土! 御使い、禁じられた酒! 肉を授かる地獄!>」



(からだの、奥の奥の奥の方から言葉が勝手に出てきて、流れるように、口から発せられていく。だめだ、と思う。なにも見えない。あたしいま、どこに居るんだろうって、思う。浮かんでいる感覚がする。なろみちゃん、と思う。なろみちゃんなろみちゃんなろみちゃん、って思う)



「<大地を満たせ肉色! 或いは堕天した者どもに命ずる!>」



(びりびり、ってする感覚。激しい流れの中に身を任せたような感覚。体は流されていくまま、意識はぐずぐずになっているけれど、感覚だけは確か。あたしは今なにをしているんだろう。また中指が痙攣した気がする。人を殺すときに大事な事は三つだよ、と誰かがあたしに囁く。考えないこと、呪文の詠唱をしっかりすること、朝食で食べた、トマトスープを思い出さないこと。しっかり口にするんだ、と誰かが言った。


(「きみは今から、地獄を召還するんだからね」)

(『誰か』が耳元から消えた。大きな流れもなくなった。今、あたしは完全にあたしになった)


 右手を地にかざす。男の子たちの目に恐怖が映っていた(滑稽だよ、ね)。なろみちゃんがどこに居るか分からなかった。魔力が右手に収斂していく。


「<蹂躙せよ!>」



(ぶわあああ、って。ぶわあああああって、なる。なるんだ、なってしまったんだ! また、呑み込まれる)



***




 箱囲学園理事長室。本棚が並べられ、壁が見えないようになっている。照明は薄暗いが、その橙色は陰鬱な印象を与えず、理事長室というより、小洒落たバーのようだった。事実、大きな本棚には、本と同じように、酒瓶が並べられているものもある。室内はあまり広くはなく、かといって狭くもなかった。理事長用の椅子に、男——箱囲学園理事長、グルーヴィ・モダンタイムスその人である——が座っている。彼の机の上いは様々な書類が山積みになっていた。それから、応接用の机が一つ、ソファが二つ。そのソファの一つに、男が座っている。目を惹くブロンドの髪、それから耳の銀ピアス。

 

 二人の視線は、天井につり下げられたモニタに注がれている。

 映し出されているのは、高梨ひふみであった。


「なんだい、あの魔法は」

「地獄を顕現させただけですよ。地獄を丸ごと地上に引きずりだしたんです。あそこの空気は、人間には毒ですからねえ。吸うただけで信じられへんくらいの激痛でしょう」

「簡単に言うけれどね」

「確かに普通の人間にできる範囲は超えてます。前世から現世へ巡る間の、地獄の記憶がまだ残ってんのかなあ。ま、ええわ」

「良くないよ。うちの学園で死人が出てる。由々しき事態だ」

「そんな事言うて、理事長。分かってるんでしょう。なろみちゃんが居るから大丈夫です。とりあえず、お話しましょ」

「お話は構わないけれど、君は一体誰だ? 理事長室には権限が無いと入れないことになっている筈だが」

「この学園で今年からお世話んなる、サーラ=クリストフです。——言うて、とりあえずやってきましたけど、理事長にはホンマのこと、話します」

「『ホンマのこと』」

「ボクは、天使です」







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