入学式前日と、それに纏わるエトセトラ(3)
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(箱囲学園・魔力測定室前)
魔力検査で真っ白になってしまった頭を冷やすのに、少し時間が欲しかった。測定室を出てすぐのところで、深呼吸をする。校内の人通りは多いけど、ここは検査場の出口だからか、あまり人が居なかった。魔力が少ないのは分かっていたから、あまり何も感じなかったけど、後ろの男の子たちがすごく怖かった。36かよ、ってあたしのことを小馬鹿にした男の子が、特に怖かった。検査中のことは、緊張であまり頭に入っていないんだけど、その男の子の顔と、声が、脳にこびりついて離れなかった。
けれど、まだ検査は終わらない。憂鬱だあ、と口には出さず、思ってから、次の検査場に向かおうとした時、声をかけられた。
「ちょっとええかなあ」
ひ、と思わず声が漏れる。声をかけてきた男の人ーー金髪で、背が高い。両耳についている銀色のシンプルなピアスが目についたーーも、うあ、とびっくりした様子だった。
「す、すみません! なんでしょうか?」
「びっくりさせてもうたかな、ごめんね。いや、ちょっと聞きたいねんけど、第六検査場ってどこか分かる?」
第六検査場は、これからあたしが行かなければならない検査場であることを、伝える。あ、ホンマに? と男の人が目を大きくして、それから人懐こい笑みを浮かべた。
「ほんならさあ、ちょっとお願い事があんねんけど!」
「な、なんでしょう」
「この子とさあ、第六検査場、一緒に行ってくれへんかな?」
男の人が、彼の背後に居た『この子』を指差す。
すごく綺麗な人だった。まるで作り物みたいだった。美しい、ってこの人のこと言うんだなあって、思った。あたしを見て、少しだけ口角を上げる。無意識で、はい、と返事していた。
「ホンマにありがとう! めっっっちゃ助かる!」
「早く行きなよ、呼ばれてるんでしょう」
礼を言う男の人に、微笑みを浮かべながら『この子』が言葉を掛ける。透き通るような声だった。男の人が走ってどこかへ行ってしまう。二人ぼっち。
「ありがとう。ぼく、酷い方向音痴みたいで。自覚はないのだけれど」
『この子』があたしに向き直って、声をかける。あたしと身長が頭一つ分違う。モデルさんみたいだ、と思う。何を喋ったらいいのか分からなくて、上手く言葉が出ない。そんな様子を見てか、自己紹介がまだだったよね、と『この子』が言った。
「ぼくは、佐々木なろみ」
「高梨、高梨ひふみです」
「ひふみ…123だね。ぼくはなろみだから、763かなあ。なんだか仲良くなれそうだね」
不思議なことを言って、彼女がまた口角を上げる。あたしはなんて返したらいいか分からなくて、はい、とだけ返した。美少女と会話するのって、難しいよ。
「それじゃあ第六検査場に行こう。連れてってもらうのはぼくだけどね。ひふみちゃん、行こうよ」
佐々木さんがあたしに背を向けて歩き始める。たぶん、第六検査場は逆の方向だ。
「さ、佐々木さん、そっちじゃないよ!」
いきなり間違えちゃった、と言いながら、体を反転させる佐々木さんの顔には苦笑が貼り付いている。それから、何か思い出したような顔。
「ひふみちゃん」
「な、なにかな」
「ぼくのことは下の名前で呼んでよ」
やけに真剣な顔をして言う。
「な、なろみちゃんでいいかな?」
「うん。ひふみちゃん、なろみちゃん。仲良しっぽいよね」
これが、あたしと、なろみちゃんと、あと、サーラ君(ちょっとだけだけど。)との出会いでした。