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<会議>

 


 箱囲学園の圧倒的戦力占有を承認する事はできない。

 <会議>において、箱囲学園以外の学園理事長から各々の言葉でその旨が伝えられた時、その広い部屋の隅で、醜い禿頭の男——箱囲学園六十六代校長その人である——は恐怖していた。

 

 戦争か?


 校長は震える手で、自分の額に浮かんだ汗をハンカチで拭う。箱囲学園が関わる学園間の戦争は約二百年の間起こっていない。

 ——起こってしまうのか、私の代で。

 校長の額から、また汗が噴き出た。


 その様子を見た、校長の前の席に座る男——白髪一つない茶髪をジェルで固めてオールバックにしている。髪と同じ色をした瞳。よく容姿が整った優男ーーが、校長に声をかける。理事長、と校長が思わず口走る。すごい汗だね、と箱囲学園理事長は笑った。全ての学園の敵意を買っている今、何故この男は笑っていられるのだろう、と校長は不思議に思って仕方なかった。



「箱囲学園理事長、グルーヴィ・モダンタイムス、意見を」


 議長に呼ばれ、はい、と返事をし、彼は椅子から立ち上がる。


「それでは意見を述べさせて頂きます。端的に申し上げると、今回の議題である、『圧倒的戦力』を——我々は持たざるを得ません」

「巫山戯るのも大概にしろッ!」


 天をも劈くその女性の怒声に、ひッ、と情けない声を出したのは校長である。聖ルルアンヌ学園校長、マリア・ルルアンヌ。ブロンドの髪が修道服から覗いている。その肌の白さと言ったら、まるで雪のようなのだが、今は怒りで顔を紅潮させ、椅子を倒して立ち上がり、また言葉を続けた。


「『圧倒的戦力を持たざるを得ない』? 適当なことを抜かすなよ下郎!」


 落ち着いてお座りになってください、とグルーヴィが柔和な笑みを浮かべたまま言うが、マリアはその言葉も聞かず、考えうる限りの罵詈雑言を彼にぶつけた。


「そもそも<彼女>が住む学区は我が聖ルルアンヌ学園の学区だ! <彼女>は我が学園に通うべきだろう!」

「彼女は二日前に住居を移しました。現在は箱囲学園の学区内に住んでいます」

「それは貴様が唆したからだろう! 恥を知れ!」

「私はこの件について干渉していません」


 <彼女>が希望して、箱囲学園の学区内に引っ越したのです、と殊更強調してグルーヴィは言った。その言葉に、マリアはまた怒りで顔を紅潮させる。


「そもそも私が『圧倒的戦力』——つまり<彼女>のことですが——を持たざるを得ない、と表現したわけを、皆様は理解して頂けるでしょうか?」


 分かるわけがない! とマリアがまた言葉を荒げる。その他の<会議>参加者も口を噤んだままだ。よろしい、とグルーヴィが言葉を続ける。


「最も重要なことは、<彼女>自身が我が学園への入学を希望しているということです。それだけの、たったそれだけの理由で、我々はもう<彼女>の意思に逆らえない。分かりますね?」


 マリアが何か言おうとするが、グルーヴィがそれを目で制して、言った。



「我々は<彼女>の、すべての概念を無視する彼女の! 箱囲学園への入学を認めざるを得ないのです。我々が束になっても、<彼女>には指一本触れられませんからね——」

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