あれ?あれれ?あれれれれ?
「それで? これからどうする」
ヘンリーが呆れた顔で言う。小鈴は申し訳なさそうに下を向いたままだ。
「そ、そうですね……やっぱり逃げ出した妖怪を捕まえるのが良いかと」
「だろうな」
「私としたことが……スイマセン」
小鈴が頭を下げて謝ってくる。ヘンリーはそれを手で制する。
「いや。君のせいじゃない。悪いのは逃げ出した妖怪のほうだ」
ヘンリーはフォローのつもりで咄嗟のでまかせを言うが実際は呆れ半分だった。凛の話によるとこれまでも小鈴が原因の妖怪騒ぎが何度か起きており、その度に霊夢や魔理沙が人里に足を運んだことが少なくないらしい。
「まあ過ぎたことを言っても仕方がないからな。何とかしてみよう」
そう言うと小鈴の顔に笑顔が戻った。
「本当ですか!?」
「ただしだ。君にも付いてきてもらう。」
次は小鈴は驚いた顔をする。本当に表情がよく変わるな、とヘンリーは思った。
「ええ!? 私はここの店番もありますし……」
「その妖怪の知識もある程度あるはずだろう」
「確かにそうですが」
小鈴が難しそうな顔をする。そしてヘンリーをさらに呆れさせることを言った。
「えーと……その本をどこにしまったか忘れちゃって」
「マジかよ」
ヘンリーはまたため息をついた。さっき本を取ってくる時は迷わずにその本がある場所へと向かっていたのに。
「ごめんなさい……さっきまで覚えてたんですけど」
「それじゃあ私が探すよ。あの本棚だろ?」
ヘンリーは小鈴が妖魔本をしまった場所の方へ行く。そして本棚の前まで行き本を探す。
「どうですか? 見つかりました?」
小鈴が聞いてくる。ヘンリーは「まだだ」とだけ返した。
「確かこの辺に……ん?」
「どうしました?」
「私は……何しようとしていたんだっけか」
ヘンリーが首をかしげる。小鈴はそんなヘンリーの下まで駆け寄っていった。
「ちょっと! あなたはこの本棚から……あれ? 何してたんでしたっけ? 」
小鈴も首をかしげる。二人してきょとんとした顔を見合わせた。
「うーん……思い出せない!」
「えーと……私も思い出せないです」
二人ともうなっていると誰かが鈴奈庵に入ってきた。
「よお! 小鈴にヘンリーまで。お前らのコンビは珍しいな」
入ってきたのは魔理沙だったがヘンリーと小鈴は二人同時に尋ねる。
「誰?」
魔理沙が怪訝な顔をする。それもそうだ。何度も顔を合わせた知り合いに突然誰と言われるのだ、訝しまずにはいられない。
「おいおい冗談きついぜ? 魔理沙だよ、霧雨魔理沙。卯月の嘘つき大会の予行練習かなにかか?」
魔理沙は冗談っぽく言ったがふたりの顔つきは真剣そのものだった。流石に魔理沙もこれはおかしいと思い、ふたりに名を聞く。
「あー、君らの名前は? 名前です。わかりますか?」
「えーと……ジョン・マクレリー」
「私は幕代後大鈴、かな?」
あまりの的外れな答えに魔理沙は声が出なくなる。ヘンリーはともかく小鈴はやばいと彼女は感じた。
「二人共違うぜ……お兄さんの方はヘンリー・カタルトフでちっこいお前は本居小鈴だ」
「ヘンリー?」
「本居?」
二人共魔理沙を何言ってんだこいつ、という顔で見る。その二人の視線に耐えられずたじろぐ魔理沙。
「お前らさ、本気か? 笑えないぞ」
魔理沙は真剣な面立ちでそう言うが、相変わらずふたりは自分が誰だかわかっていなさそうだった。
「確かそんな名前だったかな。どうだったかな」
ヘンリーは自分の名前を思い出せそうにはなっているが小鈴はどうしても思い出せないようだ。そのうち思い出すこと自体を放棄したのか本棚の方へと向かっていってしまった。
「はあ……ヘンリー、ちょっとの間ここで待っててくれないか」
「え?」
「永遠亭だっけか。そう言う名の場所があってな。そこにすごい頭が良い奴がいて、そいつならあんたや小鈴の物忘れの原因が分かるかもしれんからな」
魔理沙は永遠亭にいる『八意永琳』の下に行こうとしている。彼女は幻想郷の中でもトップクラスの知能を持っておりそんな彼女なら何かわかるかも知れないと判断したからだ。
「よくわからないが……ここで待ってればいいんだな?」
「そのとおり。絶対外に出たりするんじゃないぞ。私がわからなくなっちまうからな」
そう言って魔理沙は外に飛び出す。立てかけてあった箒を取り高くジャンプする。
したのだが、彼女はそのまま地面に落ちた。
実は魔理沙自身の記憶も所々が抜け落ち始めていた。現に飛び方を忘れ、今もなんとか飛ぼうと試行錯誤している。
「えっと? どうやって飛ぶんだ?」
いつも箒にまたがっていたことは覚えている。しかしそれはあくまで魔法使いらしくあるために持っていただけで必ずしも必要なわけじゃなかった。
「やばいな……どうすればいいんだっけか?」
魔理沙は焦る。このままでは自分の記憶さえも消えてしまうかもしれない。そうなるのは絶対に避けたかった。
「クッソぉ……」
ふと気が付くと周りには人だかりが出来ていた。それもそうだ、箒に跨がって何度もジャンプしている女の子なんて滅多に見ないだろう。
魔理沙はとたんに恥ずかしくなりその場を後にし、誰もいない裏路地に逃げ込んだ。
「はあ~……」
壁にもたれてズルズルと座り込み空を見る。今まで当たり前だと思っていたことができなくなっている。それがショックだった。
「さっきまで何しようとしてたんだっけ?」
自分にとっての当たり前すらもわからなくなってきた。考え、思い出そうとすること自体無駄に思いただ無心に青い空を眺める。
「いい天気だな」そんなことを思いながら空を眺めていると視界の端に何か赤っぽいものが飛んでいるのが見えた。それは魔理沙にとって友人とも言える間柄にあった少女、博麗霊夢だった。しかし魔理沙はそれに気づかない。
気づかないのではなく忘れてしまったのだ。現時点ではそれを魔理沙が思い出すこともないだろう。
霊夢自身も魔理沙に気づくことなく空を飛んでいた。その理由は焦りと周りの者の物忘れだった。
彼女自身は霊力による影響か大した被害を受けなかったものの霜山凛が自分のことを思い出せない状態になってしまい仕方なく永遠亭へと向かっているところだった。
「人里の様子もなんだかおかしいわね。いつもは賑やかなのに今日はひっそりとしてる」
霊夢は永遠亭がある迷いの竹林へと急ぐ。自分も記憶喪失の被害に遭わない、とは断言できない。現に霊夢自身が訓練した凛ですら自分のことや霊夢のことを思い出せなくなっている。普段はめんどくさがりな霊夢も今回ばかりは焦っていた。
しばらく空を進み迷いの竹林へと降り立つ。なるべく永遠亭の近くに降りたつもりだが大量の竹のせいで視界が悪い。例の蓬莱人かいたずらうさぎに会えたら力ずくでも案内させるのだが。
「勘を頼りに進むしかないか」
自分で言うのもなんだが自分の勘はよく当たる。今回もなんとかなるだろう。
サブタイトルでゲシュタルト崩壊しました




