現在②雨の夢
現在②というサブタイトルですが、時間的に1話の続きではありません。時系列バラバラです。今回は里沙の過去が見える夢の話。少し残酷さを連想させる夢なので、苦手な方は回れ右でお願いします。
雨の日は、夢が繰り返される。
何日経った?何か月経った?何年経っただろう。どんなことをしても、それは消えない時間。消えない記憶。過去は変えられない。忘れてはいけない。絶対に。どんなに苦しくても。苦しくて苦しくて息ができない。息ができないの。痛い、痛い、痛いよ。
霞みかかった世界。足元に広がる紅い水溜まり。震える手から落ちる銀。床に転がる男。耳に残る荒い息遣い。生臭い匂い。うるさい雨の音。うるさい、うるさい、うるさい!
……消えて、どこかに行って。お願い、やめて。やめて、返して、返して、還ってきて!お願い、お願いだから、もう奪わないで!やだ…っやだやだやだ……っ
「いやいやいや!いやあああー…っ!!」
「里沙ッ!!」
「や、や、いや、あ…っあ…」
全身に感じる気持ち悪い水滴。息ができない。苦しい。やだ、なんで、助けて。
「里沙!こっちを見ろ!」
里沙?なんで、名前?誰、誰の声?どうして?だって私はひとりになった、ひとりになったのに。名前を呼んでくれる人なんて、もう…。
「…や、や……」
「里沙、俺だ!圭だ!」
大きな声とともに感じる肩の痛み。目の前に見える影に視界が変わっていく。だんだんとクリアになる。
「そうだ、そのまま俺だけを見ろ。ゆっくり息を吐け、そして吸うんだ。ゆっくりだ」
知っている顔、知っている声。――ここは現実?
「何も言うな。ゆっくり、吸って吐くんだ」
言われたとおりに、里沙は息を吸って吐くという動作を繰り返した。そして、自然と呼吸が楽になる。そして、ようやくはっきりと見えた顔に涙がまた零れた。
「け、ちゃ…?」
「ああ」
「けい、ちゃっ、けいちゃんっ!けいちゃ…っ!」
「大丈夫だ。大丈夫、もう夢は終わった。ほら、俺の手だろう?」
圭は里沙の瞳から零れる涙を指でそっと拭いながら、里沙の顔を包むように手のひらを当てた。呼吸が落ち着いてきたことに、内心息を吐きながらもそれは少しも顔に出さず、安心させるように笑って見せる。里沙は、感じる温もりに、ようやく今が夢じゃないことを認識し、力を抜いた。
「圭ちゃんだ…圭ちゃんの手だ」
重い腕を動かして、里沙は手を圭の手に重ねた。
「圭ちゃんの手、あったかい…」
「そうか」
「そうだよ、いつもあったかいの…安心する」
目を閉じて、染み込む暖かさに力の抜いた里沙は腕を落とし、正面にいる圭に自然ともたれかかるような体勢になった。圭は頬から手を離し、そのまま里沙を包み込むように肩に腕を回し、頭を撫でた。
「寝ろ。まだ朝じゃない」
耳元で響く心地よい声に里沙はどうしようもなく安心した。
「圭ちゃんも、寝る……?」
「ああ、寝るよ。ずっといるから寝ろ」
「ん…じゃあ、寝…る…」
「ああ、おやすみ」
「お…やす…み……」
あっという間に、寝息を立て始めた里沙に、圭は息をついたのは一瞬で、忌々しげに舌打ちをした。
「あーくそ!」
天気予報では降水確率は低かったはずなのに、どうして降るんだと怒ってもしかたないものに怒りがわく。怪しくなった空に焦りを感じて、慌てて帰れば、里沙は目を閉じたままソファーで唸っていて、胸が痛んだ。帰ってきて、正解だった。
不定期に、たまに起こるこの現象。それは決まって雨の日。未だに、解放させてくれないあの日の時間。それは、里沙と圭の出会いの日でもあるが、里沙にとっては、里沙の人生において最悪の日でもあった。
汗ばんだ額に髪を張り付けたまま、あどけない寝顔を見せる里沙を、腕に抱えソファーから寝室のベッドへと運ぶ。里沙を起こさないようにそっと、ベッドに横たえ、圭もその隣に体を滑り込ませるように入り、布団を被った。体を横に向け、里沙を包み込むように引き寄せた。
――どうしたら、あの日から解放できるのか。
読んでいただきありがとうございました。今回は夢を通して、里沙の過去を少し見せるような回でした。なんとか次回へとつなげる予定です。たぶん。ほのぼの話のはずがなぜこうなった。よければ次回もおつきあいして頂けたら嬉しいです。何回も言いますが、警察の知識はドラマ程度しかないので、ご了承ください。




