現在①夜の通いごと
刑事と大学生の話を書きたくて始めました。最初は読みきりでほのぼの設定だったのですが、なぜか色々設定が増え、ちょっと暗い方向に。刑事の知識はドラマ程度ですので、ご了承ください。
「圭ちゃん生きてるー?」
日付がそろそろ変わるという頃。『圭ちゃん』と呼ばれた男は、ひょこっと目の前に現れた顔に、手が止まった。にこにこと笑うその人物に、男は顔を引き攣らせた。そして、椅子をくるりと回し体の向きを変え、大きく息を吸った。
「誰だこいつ連れてきたのは!!」
男の怒鳴り声は室内に大きく響いた。しかし、誰も返事をすることなく、それぞれのデスクにいたはずの人間は、いつの間にか室内の端にあるテーブルに集まり、口に食べ物を運んでいた。
「相変わらず美味いっすねー」
「うめえー」
いくつかの重箱に手を伸ばしては口に運び、美味い美味いと繰り返すその集団は一応、男の部下だ。しかし、彼らは男を振り返ることはない。その態度に男はますます顔を引き攣らせた。そして。
「里沙さんありがとうございます!」
「「ありがとうございまーす!!」」
「いえいえ~いっぱい食べてね」
「「はーい!」」
「……はあ」
隣でにこにこ笑って手を振る少女に頭を抱えた。
男の名前は中嶋圭、35歳。職業は警察官。犯罪者だけでなく仲間にも厳しい彼は、眉間のシワが特徴的だ。しかし、そんな彼にも特別な人物がいる。それが、先程の少女『里沙』である。しかし少女と言っても、彼女は大学3年生で成人している。ただ、如何せん容姿が幼く、年相応に見えない。彼女本人は昔からそれをコンプレックスとしているので、彼も馬鹿にすることはないが、彼からしてみれば年下であることには相違なかった。
そんな彼女はたまに、ひょこっと刑事課に現れる。突然、何の断りもなく。だから彼は彼女が毎回現れる度に頭を抱えるのだ。
「どうして連絡しない?」
「圭ちゃんも休憩して食べなよ、倒れるよ?」
「おいこら、俺の言葉聞いてたか?」
「ほらーしっかり食べてないからイライラしてる」
のんびりとした口調の里沙は、尽く彼の言葉を聞き流す。にこにこと圭の険しい顔にも怯むこともない。
「みんな美味しそうに食べてくれてるから作り甲斐があるよねー」
男の椅子に座ってくるくると回りながら、里沙は笑う。
「あんなやつらに作ってくる必要はない」
圭がため息と共に言葉を吐けば、里沙はにんまりと笑い圭を見上げた。
「あれー?もしかして、圭ちゃん妬いてる?」
「……」
喜々として聞いてくる里沙に、圭は眉間にしわをさらに寄せて押し黙る。
「心配しなくても圭ちゃんは特別だよ?」
ちょこんと首を傾ける里沙に、圭は顔を背ける。
「だから、ほら。これは圭ちゃん専用のお弁当ね」
椅子から勢いよく立ち上がり、背けた顔の正面に回って、里沙はその包みを圭に差し出した。圭はじっと見つめて手を伸ばさない。
「食べてくれないの?」
「…食べるに決まってるだろ」
拗ねたような目が演技だと分かっても、圭はすぐさま包みを受け取った。里沙はそれを見て、くすくすと笑う。
「しっかり食べてね」
「笑うな」
「だってかわいいんだもん」
「笑うな」
「ここにいていい?」
「……ここ以外にどこにいるつもりだ」
言葉は冷たい。でも、それが全てではないと里沙は分かるから。何年もずっとそばにいたのは圭だから。
「うん、ここにいる、ここがいい」
――あの日あなたに会えてよかったと思ってるんだよ。本当に。
読んでいただきありがとうございました。読みきりでほのぼの設定。これだけで終わるはずだったのに、なぜか連載方向、暗い方向。どうしてこうなった。そんなわけで時系列バラバラの2話に続きますので今後も良ければよろしくお願いします。