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蒼空のユウ  作者: 蒼際
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冬の雪パート1

  12月27日 3時25分(日本標準時)

 <<秩父山中>>


 すこしだけ開けた場所にブラックゴーストが着陸している。

 ブラックゴーストの右舷ウィングの辺りに、ユウナと名前をあげた少女は、ユウに背負われてスースーと寝息を立てながら寝ている。

 失礼な言い方であるが、ユウナは非常に軽かった。

 当然、標準的な女性の体重を基準しての『軽い』という事だ。

 大体の予想では、体重は37キロ前後。見た目は痩せこけていないが、実験過程で肋骨の数本が抜かれているんだろう。

(まずは、こいつの服と情報か)

 背負いながら後先の事を内心で考える。山中を下山すると近場の街で服を調達する事にした。

 服を売買している閉店した店のガラスを鉄パイプでガラスを叩き割って、手頃なシャツとサイズがわからないのでスカートとコートを盗んだ。

 修理代程度は店の中に札束で置いておいた。利害関係はちゃんとした方が良いと思っての行動だ。

 黒いコートを被って寝ているユウナの頬を軽く叩いて起こして、盗んできた服を着服してもらう。服を着服すると、ユウナは綺麗な碧眼を眠たそうに開きながら、

「寝ない、の?」

 数時間前よりは綺麗な発音になった言葉でユウに訊いてくる。どうやら、心配してるらしい。

 ユウはさっきまでユウナに被せてあった黒いコートを着服しながら、

「もう、眠り疲れたからな」

 ズボンのポケットに入れていたハンドガンをコートのポケットに入れなおす。話すのは苦手だ。

 どうも、ユウナにはサイズがすこし大きかったようで、白いシャツの袖は手のひらを隠し、灰色のスカートは膝下まで隠し、白いコートは足首まで長さがあった。表情があまりないユウナは、どうでも良さそうにも見える。

 ユウナは靴を履いていないため、一歩、歩く度に寒そうにすこしだけ口元を歪ませる。

 ユウはその様子をすこし見ていたが、さすがに他人に見られると不味いと思い、ユウナの片手を掴んで、ユウナを背負った。

 ユウナはすこしキョトンとしながら、

「歩ける、よ?」

「出来るだけ早く駅に行きたい。偽造書類と戸籍も用意する仕事もあるしな」

「偽造?」

「日本の高等学校に編入するための書類に日本国籍を証明する戸籍作りだ。世界一平和ボケした国に慣れるにはもっとも最適な方法だと思うんだが」

 ユウがそう淡々と答えると、会話はそこで終わる。

 明かりのない街並みを眺めながら、駅に向かって歩いていく。しばらくして、吐く息が白いのに気付いた。

「眠る」

 と短くユウナは言うと、またスースーと寝息を立てる。背負われた感じが揺りかごのような感覚がした。

 程なくして、まだ始発も運行していない駅に到着した。

 寝ているユウナは駅に設置されているベンチに寝かせて、ユウはその横でハンドガンとサブマシンガンの弾倉に装填されている弾丸の数を数えて、安全装置を入れた。

 すこしだけ、夜空が明るくなってきた。



  12月28日 14時37分(日本標準時)

 <<北海道新千歳国際空港ロビー>>

 

『羽田行き906便にご搭乗の方は――』

 新千歳空港のロビーに流れる女性の声のアナウンス。

 沢山の人が入り乱れているロビーに、釣竿でも入れてあるのか、と思わせる細長いバッグを肩に担いでいる黒人の男性の姿がある。

 身長は180センチ以上で、体躯は良い。黒塗りのバックの中身はアサルトライフルである。

 数日前に、北朝鮮の国境から中国まで逃げて、現在に至っている。黒人男性の名前はハインド・ハワード。

 元海軍所属の中佐の経歴を持っている。

 武器の持ち込みは容易であった。買収すれば、簡単に検問を通過出来るのだ。

 けれど、それは決して簡単な事ではない事を、ここに言っておこう。

 ハインドはロビーから雪の積もっている外に出ると、煙草を灰色のコートの胸ポケットから、一本だけ口に咥えて、ライターで火を点ける。

(世界一安全を約束された国か)

 そう、日本はアメリカに平和条約を結んでいるため、見返りとして平和を約束されているのだ。

(まあ、休暇を過ごす場所としては、もっとも適しているな)

 内心でそう言うと、口から煙草の白い煙を吐き出した。空港前で停車している一台のタクシーに乗り込んで、

「運転手さんよ。ここから一番近いホテルまで行ってくれ」

「外人さん。あんた、日本語上手いね」

 運転手はそう言うと、タクシーを走らせる。

「語学はちゃんと覚えてないと、仕事が出来ないからな」

「通訳の仕事ですか?」

「まあ、そんなもんだな。中々、スリルと迫力に満ちた仕事だよ」

「それは楽しそうですね。私もそんな職に転職したいですよ」

「同業者はみんな歓迎さ。運転手さん、あんたは良い人決定だ」

 軽い口調でハインドは言うと、運転手はバックミラー越しで、

「どうも」

 と短く言った。


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