箱庭の少女パート3
12月26日 12時20分(グリニッジ標準時)
<<ロシア北東部空軍基地付近の街『スラム化した家の内部』>>
割れた窓ガラスの破片がボロイ家の中に散乱している。
足をすこしでも踏み出せば、ガラスを踏み潰す音が、ジャリ、と聞こえる。
黒いコート姿の少年は、片手に握られた古いタイプのハンドガンを正面の暗闇に向ける。
「武器商人だよな?」
暗闇の向こう側に向かって、少年は訊いた。
「武器商人ではないんですがね。貴方様は東洋人ですか?こんな辺境な土地に珍しい……どんな武器がほしいんで?」
顔一杯にボロを纏った中年男性のロシア人が訊いてきた。
少年は眉根を動かさず、
「射撃精度と威力が安定した銃器がほしい。一番新しい型のサブマシンガンを2丁に自動式の狙撃用ライフルにレーザーサイト。予備の弾倉を各二つずつに弾薬を1キロずつほしい。あと、世界情勢の情報と物騒な軍事情報を教えてほしい」
銃を男性の心臓に向けながら、注文を言う。
男性はすこし眉根を顰めながら、何かを考える素振りを見せたが、すぐに承諾する。
「いいでしょう。ここでの最後の商売ですから、景気よくしましょう」
嫌な笑みを浮かべながら、男性は言うと、少年は黒いコートの中から、ドルの札束を取り出して、男性に放った。
男性は札束を受け取ると、
「確かに」
と短く言って、奥に歩いていく。
少年は銃を男性に向けたまま後ろをついていく。奥の部屋には色々な重火器が山のように置かれている。最新のアサルトライフルから旧式のライフルから手榴弾、対戦車用ライフル、対戦車ミサイルまである。
「好きなモノを持っていってください。はい、これが世界地図と歴史表と私の持っている北朝鮮からアメリカの軍事情報です。では、これで失礼」
男性はそう言うと、一度頭を下げて、どこかに歩き去っていく。
少年はサブマシンガン<MP5>を2丁、自動ライフル<G3>を1丁、突撃ライフル<M4カービン>を1丁、ハンドガン<SIG/SAUERP228>を1丁とそれぞれの弾薬を1キロ程を外に擬似装甲を展開しているブラックゴーストに運んでいく。
武器の収納ケースに入りきらなかった銃器はコートの中に隠し持つ事にして、ブラックゴーストをそのまま垂直に離陸させて、一気に上空に舞い上がった。
地上からは、虹色の明るい光線が霧の中に引かれているように見える。
速度計測器には自動操縦と表示されている。
少年は武器商人から購入した銃器にレーザーサイトや弾倉の装着やら弾丸の装填する作業を済ませている。
銃器の作業がすべて完了すると、今度は世界情勢と軍事情報を綴ったファイルを黒い手袋をした片手で捲りながら読んでいく。
北朝鮮の東南国境線上の軍事科学基地での生体兵器の実験から、新型弾道ミサイル、新型ステルス機能から、ステルス潜水艦の建造の情報は細かく関心するモノがある。
少年は黒くすこし長く伸びた前髪を片手で捲くりながら、
「目的地の変更。場所は北朝鮮東南国境線上の軍事科学基地。破壊するべき場所だ」
短く命令する。ブラックゴーストは進路を変えて、速度1200キロで飛行する。
1200キロは<擬似装甲>が展開出来る限界速度だ。これ以上の速度を出せば、擬似装甲が解除され、近隣の国のレーダーに捕捉されてしまう。
捕捉される事はまず避けたいので、少年は自動操縦に速度制限のプロテクトを掛けている。
なぜ、北朝鮮に進路を変えた理由は、生体兵器についてだ。人間に劇薬染みた薬物を大量投与する事で、脳の一部を変異させて、肉体の超人化を図り、感情から恐怖心を抹消する事で、突撃していく戦闘道具を作り出す研究。
国連安保なんたらという単語があったが、それには引っかかってないのか、または見逃されているのかを確認するためにも、破壊した方がいい。少年はそう結論付けていた。
少年はすこし眉根を顰めながら、思案の色を浮かべる。
そして、作戦に関する命令を口にした。
「俺が降りた直後から120秒後に巡航ミサイルを打ち上げて、適当な箇所を爆撃しろ。サテライトもチャージもしとけ。サテライトの操作はすべて、ブラックゴーストから俺に移す。シグナル言語は『虹』に設定」
キャノピーには<了承>の文字が赤信号の点滅してるみたいに表示される。少年はサブマシンガン1丁とハンドガン1丁を黒いコートのポケットに入れる。