箱庭の少女パート1
<<フーファイター『幽霊戦闘機』>>制空ジェットファン雑誌評論より
第2次世界大戦時中の戦闘機のパイロットが目撃したという謎の戦闘機。
その戦闘機は現代では飛行するのが不思議なフォルムをしており、垂直飛行、曲線飛行、ジグザグ飛行などの当時の航空技術では不可能な飛行をしてみせて、飛行速度は音速で飛行していた高度は大気圏近かった。
その戦闘機は突然現れて、突然消えていくので、当時のパイロット達は『幽霊戦闘機』と称したという。
<<第2次世界大戦ミッドウェー海沖上空>>
上空を舞うように消えていく火花に、打ち上げ花火のように炸裂していく日本軍の戦闘機に連合軍の戦闘機。
海面を泳いでいる魚雷が海上を浮かんでいる大型軍艦の船底に直撃して、軍艦は次々に沈んでいく。
その中に、一機だけどちらの軍にも属さない高速飛行をしている黒いステルス戦闘機のような形状が遥か上空にある。
その戦闘機の無線通信回線からは両軍の通信が混じり合って聞こえるため、何を言っているのかわからない。キャノピーには立体映像のようなモニターが映し出されており、ミッドウェー海域のレーダーが表示されている。
「降下速度間隔コンマ3・5。サテライト起動から2秒後にジュネレーター左舷、右舷、下部上部とも50パーセント稼動開始。さて、終わらせに行くか」
大人びた少年の声がコックピット内に響くと、左右にある操縦レバーを倒して、黒い戦闘機は垂直に降下する。
海上から打ち上げられる火の粉のような対空機銃の弾丸を螺旋状に機体を回転させながら降下させ、左右のウィングの上部に設置されているブースターのような四角い円筒形の塊の先には四角い大きな穴がある。
機体からそれを離脱させた瞬間、明るい虹のような光線が海上に突き刺さり、爆発する。
その直後、一発の砲弾が黒い機体の後部ジュネレーターブースターに直撃して、海上に水飛沫を上げて落下した。
12月19日 21時36分(グリニッジ標準時)
<<北朝鮮チャガンのフィチョン市内>>
季節は冬の12月。人の気配がない廃墟染みたボロイ家並みを走る足音。
そして、その足音を追う数名の足音と、自動式アサルトライフルの発砲音が響き渡る。
「おい、あの東洋人は居たか!?」
「ダメだ!関所の連中が殺されている。巡航型弾道ミサイルすべて破壊されてしまった!」
甲高い男性の大きな声には怒りを感じる。
今から約2時間前。武器格納施設が黒いコート姿の東洋人一人に爆破・破壊された。その東洋人を捕縛・銃殺しなくては、キム将軍閣下に処刑される可能性がある。
その性で、兵士達は焦っている。
「あの東洋人は、一体何者だったんだ?銃弾を全て避けていたぞ!?」
二人の内の一人が、大きな叫びに似た声で言う。
「俺が知るか!今はまず第一にする事は国境封鎖だ。陸・海・空を封鎖して、あの東洋人を射殺する」
もう一人の男性はそう言うと、兵士達は足早とどこかに走り去っていく。
12月21日 11時45分(グリニッジ標準時)
<<北朝鮮国境付近監視関所>>
慌しい様子の関所付近には、完全武装した北朝鮮兵が10名ずつ小隊を組んで、合計8小隊が警戒している。
大きな川を隔てた国境は見晴らしがとても良く、この国境を抜けるとなると、ここは全滅させるか、逆に殺されるかのどちらかである。
昨晩、珍しく雨が降った性で、川の水流の勢いは激しく、水の音が五月蝿いくらいに辺りに響いている。
関所付近を統轄している少佐の階級勲章のサングラスを掛けた渋い男が無線を片手に大きな声で、
「これは訓練ではないぞ!もしも施設を破壊した東洋人を逃がすような失態をしてみろ!?偉大なる我らが将軍閣下を辱める事になるぞ!」
熱血な男性の声に、応えるように無線から、
『はっ!!絶対に射殺します!』
甲高い男性、女性の声が聞こえてくる。
その時、遠くの方から大きな爆発音が空気全体に伝わったように鳴り響いた。
遠くの枯れ果てた土地からたちのぼる黒い煙幕。これで、北朝鮮兵はより警戒心を高める。
いや、小隊の隊列に綻びが生まれた。
一人の北朝鮮兵の視線と合う赤いレーザーの光。そして、赤いレーザーが当たっていた額に衝撃が走ると同時に脳漿が噴出して、地面に息絶えて倒れる。
それを合図となったように、次々に一人ずつ確実に頭を狙撃用ライフルの弾丸が撃ち貫いて、一個小隊を全滅させる。
それは、僅か15秒足らずで行われた。
呆然とした少佐の階級勲章の男性はすこしの間、口を開けていると、正気を取り戻したのか無線を片手に握り締めて、
「おい!誰か狙撃兵の存在を確認した者は居るか!?」
そう無線に向かって叫ぶと隣で双眼鏡で辺りを見回している兵士に視線を向けて、
「貴様は何を見ていた!?――なっ!」
言いかけた瞬間、少佐の目の前の兵士の心臓にライフル弾が命中して、その場に血を流して倒れる。
これには、さすがの少佐も言葉を失って、慌てた様子で姿勢を屈めて伏せる。
無線からは兵士の断末魔が聞こえてくる。
『少佐!狙撃兵を確認できませっが!――』
『どういう事なんですか!?目標は一人ではなかったっ――!!』
次々に全滅していく小隊と兵士の悲痛な最後の叫びが、突然止まった。
少佐は顔を青ざめた。
(ぜ、全滅したのか?80人以上の兵士が……そんな馬鹿な)
内心で思うと、後悔だけが少佐を支配する。――っ!?一発の発砲音が突然聞こえた。
少佐は恐れながらも、ゆっくりと顔を上げて、周りを見た。
すると、正面に黒いコートに黒い長ズボンに黒いサングラスと、全身黒で決め込んだ年齢18歳程の少年が、狙撃用ライフルを構えて、こちらを狙っている姿を確認した。
確認した次の瞬間、少佐の頭が撃ち抜かれて、死亡する。
少年は狙撃用ライフルをその場に落とすように捨てると、黒い手袋を片耳を押さえるように当てると短く言った。
「擬似装甲解除と同時に降下しろ」
大人びた声で命令すると、遥か上空から何かが降ってくる。
地面に着地する瞬間に下部ジュネレーターが起動すると同時に降下速度をリセットして、死体の山となった国境前に黒いステルス機のような戦闘機が着陸する。
少年が近づくと、察知でもしていたのかキャノピーが勝手に開いて、少年は何事もなかったかのようにコックピットの座席に座って、キャノピーを閉じる。
メインジュネレーターを起動させると同時に擬似装甲『機体を不可視状態にして、レーダーから完全に消失させる機能』を作動させて、一気に遥か上空に上昇して、消える。
12月22日 16時20分(グリニッジ標準時)
<<ペンタゴン内部>>
ペンタゴンの会議室にはズラリと軍服を着服している軍上層本部のお偉いさんが、各自資料を読んでいる。
<<資料内容>>
『昨日中、北朝鮮上空を巡回していた我が国のスパイ衛星が、北朝鮮国境付近の基地の爆破を確認。それから数十時間後に国境監視関所の兵士の全滅を推測される謎の戦闘機の存在を確認。謎の戦闘機の特徴は以下の通りである。黒い機体で幅は約15メートル縦は約10メートル・垂直離陸に高度維持から高度のステルス機能を搭載していると推測・速度は現代の戦闘機の上である 以上』
情報機関が必死にかき集めた情報に読んだ一人が、
「いい気味でしたな。北朝鮮はこれで、武力の一部を失ったという訳だ」
馬鹿の一つ覚えのような癇に障る嫌な笑い声を上げながら言う。
「情報局としては、たった一機の戦闘機……いや、一人の人間がこの結果を残した事の方が重大な事であり、危惧するに値する事実ですよ?アルザック指令はどう考えますか?」
この中の面子で一番比較的に若い男性が、上座に座っている威厳たっぷりの黒人男性に訊く。
アルザック指令は怪訝そうな眼差しで資料を読んだ後、机の上に置いて。
「うむ、まだ結論は出せないが、一つだけハッキリとしている事がある。この資料にある黒い戦闘機はどの国にも属していない。敵とか味方のどちらでもない存在だ。この戦闘機の所在は今のところ全く把握出来ない……完全に消えれる程のステルス機能の高さはすでに未知なモノと言える。悪い方向に言い換えれば、現段階でこのステルス機能を上回るレーダーはどの国にも存在していないから、もしもそのステルス機能を使われれば、国一つは簡単に爆撃、壊滅出来るのだよ。兵器開発部の方ではこの事態をどう見ているのかね?」
落ち着いた声で言うと、今度はメガネを掛けた白人が口を開く。
「我々兵器開発部には、そんな高度のステルス機能は開発する技術はないです。この黒い戦闘機の推測されている性能についてですが、この資料を見る限りでは、こんな戦闘機は現実に実在している例など聞いた事がありません。噂なら、第2次大戦時にミッドウェー沖で目撃された『幽霊戦闘機』の内容に酷似していますが、まさか実在するとは考えてませんでした」
「現在の対抗策は、直接上空を戦闘機・偵察機で巡回するしかないな。この事は国連にも伝えるように。以上だ」
アルザック指令は少ない情報から導き出した対抗策を言うと、会議を解散する。
誰も居なくなった会議室を、ため息を漏らしながら呆っとするアルザック指令はゴールドに近い瞳を細めて、
(幽霊戦闘機の噂なら聞いた事がある……だが、ミッドウェー沖で日本軍戦艦の砲撃が直撃して、海に墜落した、と聞いていたんだが、本当の話だったのか?)
内心で思うと、もう一度ため息を吐いた。