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友人との休日(3)

「一応報告しとくけど、あっちでも遭ったよ」


それはひとしきり騒いで、場が落ち着いてきたころに、ぽつり、と静かな声で呟かれた。

明確な主語のないことば。

けれどこの場にいる皆には、明確にわかるその単語。


「へえ、どんな感じだったの鈴子ちゃん」

「んーとね、楽しい陽気な子も多かったかなあ。あっちのほうは妖精とか、明るいのも多いしね。怒らせるとちょっと、なのも多いんだけどさ」

「楽しかったんだろう?」

「そりゃね!あっちでも騒いできてやったとも!」

「鈴子さんは誰とでも仲良くなるのうまいですもんねえ」

「あー、でも犬は勘弁ね」

「鈴子、狐って何と連なっているか知っているかしら」


再度石化するリン。

はは、と聞こえる笑い声。

軽い会話だけで、済んだことにそっと息を吐く。

あちらにだって、コワイモノは一杯いる。

好奇心は猫を殺すが、文字どおりでは洒落になるまい。


「そう、もう私はあっちから越してきて随分たつから、随分変わったでしょうけど。」


懐かしのヨーロッパ。

ひっそりと年月をただ積むように生きていただけだったけれど、それでもたまにふと望郷の念が景色を思い出させる。


「あ、ちょっとあたしトイレー。楓、一緒にいこー」

「え?ああ、まあいいけど」


リンに声をかけられ、腕を掴まれて引きずられるように席を立つ。

まだそんなに行きたいわけでもないけど、本格的にアルコールが回り出す前としてはいいかもしれない。


「いってらっしゃーい」

「行くついでに揚げだし豆腐でも頼んで来て頂戴」

「あ、私杏酒で」

「俺は日本酒と刺し盛り」

「俺軟骨揚げとビール」

「注文多いよ皆」

「半分は私が覚えておこうか」


通りすがりに頼まれたもの+自分たち用の注文を店員にしつつ、一路トイレへ。

ドアを一枚隔てれば、お店の活気が嘘のように静か。


「で、リン。わざわざ連れ出して何、どうしたの?」

「さすがに気づくよねー。いや皆で集まる前に言ってたじゃん、本命のお土産があるってさ」

「ああ」


そういえばそんなことも言っていたような。

ほとんど忘れてた。


「これなんだけどね」


ごそごそ、とスボンのポケットを探るように取り出されたのはちいさな紙袋。

手渡された袋は結構軽い。


「あけていい?」

「うん、渡されたもんだし」


誰からさ、と思いつつひっくりかえすと、出てきたのは赤い石の嵌められた片方だけのイヤリングだった。

むしろイヤーカフスというべきか。

マジマジとみてみると結構縁取りの意匠などは手が込んでいる。

それなりに値の張るものだろう。

いいものだ。素直にそう思える。が、だからこそこんなものをもらう心辺りがない。

そも、何故リン経由で渡されるのか。


「で、これ、誰からなの?」

「知らない人」

「は?」


なんだその回答。

思わず顔をみれば、言った本人も気まずそうというか、微妙そうな顔をしていた。


「説明してくれる?」

「なんていうか・・・向こうでも騒いできたっていったじゃん?たまたま仲良くなった向こうの子にガーデンパーティみたいのに誘われたんだよ。その中の一人にね、渡された」

「それって君を気に入ったから、とかでリンに、じゃないの?」

「ううん、帰り際にああそうだ忘れるところだった、これを君の友達に渡してくれ、って。誰のことだかわかんないし、いきなり言われても困るから。なにそれ、ってこっちが聞き返したら」


―今なんて名乗ってるかは知らないけど、ニホンにいるっていうからね。君のそばにいるカーミラによろしく。


・・・なに、それ。


「最初ぽかん、ってしちゃったんだけど、カーミラって確か吸血鬼の女の人版の代名詞だ、って気付いて。急いで追いかけたんだけど人ごみにまぎれてわかんなくなっちゃったのと、名前聞き損ねたーって後から思い出して・・・引き返して今の誰かわかるか聞いてみたんだけど、友達の友達まで呼んでるような感じだったから誰もわかんなくて・・・その、ごめん」

「いや、そんな訳わかんない奴相手に無事でよかったよ。目的は渡すことだけみたいだからリンをどうこう、とかは無いと思うけど」


その名はさすがに名乗ったことはない。

が、そう言う方面に詳しければ、わかる人にはわかるような言い方ではある。


「もしかしたら他にもこっちに来てるのもいるのかもしれないけど、私が仲良くしてる吸血種なんて、リンだけだったから、さ」

「確かにそれだけ聞くと間違いなく私をご指名だね」

「だから一応渡しはするけど・・・捨ててもいいとは思うよ?なんか曰くつきとかかもしれないし、調べたらまずいもんかもしれないし」


順当にいけば、渡ってくる前の私を知っている誰かだろうが、そのころからの付き合いのある奴がまだ生きていただろうか。

一体誰の仕業。

赤い石事態もみればなかなかに上等なガーネットである。

余り装飾品の類は付けない私でも、これならまあいいか、と思える程度には品がいい。

好みまでわかってて、だったら尚の事正体がしれないのは不気味である。


「とりあえず、一旦もどろう。皆まだまだ飲み足りないだろうしさ、今日はリンが主役なんだから、席抜けっぱなしもよくないし」

「うん、わかった・・・でもなんかあったら言ってよね、楓」


心配そうな鈴子の顔。

だいじょうぶだから、というように肩をぽん、と叩いて進路を促す。

あまりトイレを占拠しているのも他のお客さんに迷惑であろう。


とはいうものの、廊下を歩く最中、気にかからないはずもなく、ポケットの中でころころ転がり謎のプレゼントは主張を続けていた。

何の目的があったのか、それすら赤い石は何も答えない。


新しい思い出と溜息ひとつ、悩み事ひとつ。

それが休日の収穫だった。

伏線的な物が張ってみたくて。

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