友人との休日(2)
「ひいさまお久ぶりー。元気だったー?」
「まあまあ鈴子、私が元気でないように見えるのかしら」
第一声がそれか。
ぴしりと固まるリン。
小首を傾げながら聞き返す様はとてもかわいらしい。が、人をいたぶる様、性根の悪いおばちゃんのごとし。
気に入らなければ誰あろうと毒を吐く。
それがひいさまである。
「え、えーと、変わりないかなっていう慣用句といいますかね?」
「ええ、勿論判っているわ、ほんの冗談ですとも。それにしてもしばらく会わないうちに、随分とまた焦げたのね」
焦げたって。
あたふたしているリンをさて、どうしたものか、と眺めているうちにひいさまがこちらを向く。
「樹、貴女も久しぶりね」
「といっても私たちは2週間ぶりくらいですか。何にせよ、お久しぶりです、ひいさま」
とりあえず無難に挨拶。
ほら、と座るようにリンを促し、注文を取りにきたウェイターさんに紅茶を2つお願いする。
窓際のテーブル席には飲み物がもう一つ。
ということは後一人誰かいるのか。と思った処で背後から声をかけられる。
「うっす、お待たせ。もう二人とも来てたか」
「待たせすぎではないかしら、義人」
「ああ、お付きはやっぱり高見くんか。久しぶり」
「ヨッシーじゃん。ういす」
用を足しに出払っていたらしい彼は高見 義人といい、化け物ではないただの人間である。
もっとも彼自身が真っ当な人物かといえばそんなことはなく、ひいさまというお狐さまに憑かれているのだが。
大学3年、必修単位もどうにか取得し、最近時間ができ始めた彼は、あいた時間をひいさまの足として使われているらしい。
「いや、本当ひさしぶりだな。夕はこれで結構心配してたんだからな、鈴子ちゃんのこと」
「・・・・義人、口が過ぎるのではなくて」
「わぁ、それであんなにあんなに連絡よこせのメール来てたのかー」
「ひいさまはこれで心配性ですからね」
「・・・貴方たち?」
さっと思わず目をそらす一同。
からかいすぎたかもしれない。
「あー、茶ーしたらすぐ出るか?一応店には6時半って言ってあるけど」
「ひさしぶりだからまだいいじゃない。ね、貴女もそうでしょう、鈴子?」
旅の間のお話をとっても聞きたいわ?
そうにこりと微笑む姿もかわいらしい。
が、その笑顔は間違いなく獲物を見据えた狩猟者の笑みでしかなく、どうみてもさっきの仕返しもまじっているのは明らか。
相対するリンはすでに首を抑えられた形にしか見えなくて、高見くんと私は二人、はは・・・と空笑いをこぼすのだった。
合掌。
「それじゃあ再会を祝して、ついでに騒ごうか、乾杯ーっ」
ジョッキ、グラスの響きあう音がキン、となる。
あれから、2時間。
ここはひいさま・・・もとい高見くんが予約した多国籍料理店。
メニューや雰囲気が女性受けしやすく、カップルにも人気の店で2度程来ただけだが私も気に入っている。
こってりと長期不在を絞られ、なんだかやつれた様子のリンも久々の友人との再会とアルコールに気を取り戻したようだった。
「しかし無事でなによりだ。いきなり帰ってくるのを伸ばす、と聞いた日にはあちらで何かあったのかと思ったぞ」
そう言っておかわりを頼む彼は、永原 京という。
涼しいかおして、すでに2杯目が空いている。
そして頼んだおかわりは一杯だけかと思いきや、3杯たのんでいたあたり、蛇神の一端の貫録であろう。
「そうそう。でも鈴子さんのことだからまた気まぐれで予定変えてたりとかありそうかなあ、って皆で言ってたんですよ。あ、これおいしい、もう一個頼んでもいいです?」
しゃべるより食べる方が多い彼女は上野 ひのえ。
彼女も立派な妖怪で、正体は二口女。
さすがに人前なので後ろからは頂いていないが、その分前からの摂取量が多い。
地味につまみ争奪戦が各皿で行われている。
傍からみれば少し騒がしい程度だけど、人外5+1の奇妙な宴は始まったばかり。
ちょっと短めですが。