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たとえば人に交じるとして

なんとなく思いついたものをかきあげてみました。

文章書き初心者ですので暖かく見守ってやってください。

吸血鬼。

この単語を聞いて貴方は何を浮かべるだろう。


夜の闇に潜み、人の血をすすりつくす化け物。

体を変化させ、狼・犬・蝙蝠等使い魔を操る。

日の光の元は歩けず、流水は渡れず、聖別された品には触れられず。

けれど長い時の中を退廃的に、されど誇り高く生きる呪われた生き物。


幻想の中でそれはよく語られる種。

人間に倒されるべき化け物。

御伽噺の中でだけ語られるそれは退廃の美を伴って人を惹きつける。


この物語は現代にひっそりと生きる、一人の吸血鬼、の物語。






ざわざわ。ざわざわ。


「…………………が、お薬ですね。お大事にどうぞ」

「竹中さーん、内科3番までどうぞー」


ざわざわ。ざわざわざわ。

病院の中は何時もごった返している。

怪我人、病人、見舞客、入院患者、職員。

懸命に生きようとする人々でいっぱい。



かたかた、とキーボードを叩く音が響く。

出来上がった領収明細をプリントアウトして、ファイルに挟んで窓口の当番に差し出す。

うん、と凝りほぐれた背筋を伸ばして時計をみれば、針はもう5時を指していた。


「・・・あ、そろそろ時間。局長、在庫確認行ってきます」

「ああ、もう5時か。宜しくー」


上司に一声かけてからデスクを離れる。

おっと、忘れるところだった。発注表も持っていかないと。



喧騒の中を、バックヤードに抜ける。今日の目的は3Fの倉庫。

遠くで響く子供の泣き声と、あやす母親の声。

表と違ってどことなく冷たい空気と静かな雰囲気。

すれ違う人に声をかけつつ階段を上る。


「お疲れさまですー」

「あ、(いつき)さんお疲れさまです」


顔なじみの子と挨拶を交わす。

確か研修で来ている看護師の子だったろうか。


「ってか樹さんが裏にいるってもう5時ですか」

「何その反応。まァ、君はまだ帰れそうにない、ね」

「でももう少しだ、って思うことにしておきます」

「そう、じゃあ後もう数時間がんばんなさいな」

「はーい。お疲れ様でしたー」




階段を登り切ればそこが目的地。

鍵を開け、むやみやたらと重い倉庫の扉を開ける。

閉まるに任せ内側にはいりこめば、背後からぎぃ、ばたん、と鈍い音がした。

棚に並んだ薬剤パックの残量、消費期限を確認しつつ足りないものを記入し発注しておく。

しんとした中、さらさらと筆記用具の記入音だけがする。

倉庫の隅にあったカートに空きダンボールを1箱置いて期限の近いものを無造作に投げ込む。

他のつぶしたダンボール箱は広げて隅へ、もう少し溜まったら捨てることにしよう。

後は2Fの医局と1FのICUに持ってけばおしまい。




「お疲れ様ですー。輸液とかもってきましたー」

「あ、ありがとうございます、何時もすいません」

「いえいえ、在庫確認のついでですから」


ニコニコとしながら会話を交わす。

笑顔は仕事の潤滑剤。

特に看護婦さんと事務員とで中が悪いのはいろんな意味で弊害にしかならないので。

物のついでに医局の補充もみてくべきか、とふと思った時、割り込む声。


「婦長、ちょっと廃棄行ってきます」

「あ、阿部さん、いいですよ、カート引いてますし私いってきますよー」

「あれ、事務員さん。でも悪くないですか?」

「いえいえ、丁度そろそろ巡回とかでお忙しいでしょう?」

「え。でも・・・」


ちら、と婦長を仰ぎ見る看護婦さんA。

ちょっと悩ましい表情の婦長。


「ほら、どうせ私カートまた3Fまで持ってかないといけないですから。これからICUにもいかないとなんで、一緒に捨てるものあれば持っていきますよ」

「・・・そうね、お願いしようかしら」

「わ、なんかすみません・・・!そしたらこれひと箱お願いします・・」


ずしん、とカートに乗せられる廃棄箱。結構重たいな、これ。

運ぶ音までがらごろ、と重たい。




「お疲れ様ですー。木島さん、お届けものですー」

「あ。樹さん、何時もすみません。丁度リンゲル切れてたんで助かります」

「生食も使いますよね?おいてきますよ」


よっと力をいれてどすん、と下に2箱下ろす。

それだけでずいぶんとカートが軽い。

受け取った彼はそれを奥に持っていく。さすがは男の人、ひょいひょい運んで行くのう。


「あ、今から廃棄おいてくる予定なんですけど一緒に持ってくものありますか?」

「今出すものあったかな、・・・ああ、こないだとったけど結局使えなかった血液パックぐらいですね。今赤箱ないんでそっちでお願いしていいですか?」

「ああ、いいですよー。じゃあお疲れ様です」




裏口のごみ置き場。

産業廃棄物の黄色い箱をずしん、とおく。

そろそろ溜まってきたし、取りに来るよう業者さんに連絡をいれないとまずいかな。

さて、と離れようとした時に後ろから声をかけられる。


「おや、事務員さんお疲れ様」

「警備お疲れ様です。珍しいですね裏でお会いするの」

「前はそうでもなかったんだけどここ最近上がうるさくってねえ。 なんだか裏の見回り回数も増やしとけって」


警備のおじさんはやれやれ、と言わんばかりであった。


「こんな処特に何もないんですけどねえ」

「まったくだ。それじゃあねえ」


見送って、一息。




タイムカードを切れば、ピ、と電子音がする。

なんだかんだで時間はもう6時半。すっかり遅くなってしまった。

在庫整理のある日は何時もよりどうにも遅くなる。


「お先失礼します。おつかれさまでしたー」

「はい、お疲れー」


といっても、残業してる人は残業してはいるのだが。




薄暗い夜道を一人帰る。

繁華街、とは言わないが駅近くでもないこのあたりはさすがにこの時間帯だと暗い。

人通りはまばらだ。

一本でも道をそれれば、そこは何かがでそうなそんな気配。

もっともいるのはガラの悪いおにーちゃん達であろうが。




今日のご飯は何がいいだろう。

うわ、野菜高っ。トマト缶でいいな。明日は休日だしなんか煮込もう。

迷って休日だし、とワイン2本購入。

後は肉でも魚でもいいか。




「ただいまー・・・・っと」


待つ人もいないが気分で声をだす。

たどり着いたマンションの自室の空気は冷たい。

外から帰ってきた身には温かいが、それも一瞬のこと。

明かりを付け、エアコンを付ける。

どうせこの後飲むんだからシャワーも明日でいいだろう。

ポチ、とテレビを付ければやってるのは恋愛ドラマにバラエティー、ニュース。

とりあえずはニュースに合わせておく。

流れる悲惨な事件は外国のことばかり。

近場で物騒な事件が起きたなんてこともなく、季節行事の様子なんかが流れては消えていく。

平和なのはいいことだ。

さて、食事の準備をする前に一服するか。


「ひさしぶりだなあ。・・・いただきまーす」


バッグの中から取り出すのは、廃棄を請け負って、そのままくすねた血液パック。

切り込みをいれて、ストローをねじ込む。

ちゅう、と吸い込めば広がる血液。

うっとり、とした後時間が経った感じの鉄錆びた味がきて、う、となる。


「・・・んん、さすが賞味期限切れ目前・・・。何か色々足りない味だ・・・」


いやでもないよりはマシ、まだイイほう。と心の中で呟いて飲み干す。

ぷひ、とついて、結局物足りなさに冷蔵庫からトマトジュースを取り出す。

コップに注いでウスターソース少量投入。


「・・・・ふう。・・・・たまには新鮮なのが飲みたいんだけどなあ」


口直し、ではあるが最近ではこっちがメインになってきている。





世の中は吸血鬼、もとい異端にたいして優しくはない。

こうして潜りこめているだけ僥倖なのだろう。

犯罪侵す覚悟があればおいしい血はゲットできるが、後始末の方が面倒臭い。

残念ながら今の自分は能ある吸血鬼でもないので手間暇惜しむのがダルイ。


―世の中もっとうまくやれる吸血鬼(ひと)の方が多いんだろうなあ。


そこまで思って丁度トマトジュースの缶を飲みほした。





これはそうたいして誇り高くもなく、

日々をなんとか生き延びようとする吸血鬼の日常録である。

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