ニホンジン
「「「「「………―――――~~~~~!!!!!」」」」」
心と体が入れ替わる時に聞こえいた音―――――イルダの身体を使う何者かが、その手に持つ石に触れた時、その音が鳴り響き、その場にいた人々に戦慄が走る―――――!!!!!
「か、鏡、鏡鏡鏡~~!!!」
慌てて精霊鏡を覗き込む人々!!
「あ、まあ俺は変わらず、か……相変わらず変なのが映ってるけど……」
エイトは自分のままなのに安堵する、自分中心に渦巻く光も、その中で踊り狂う小さなエイトの集団も、変わることはない――
「どけぇっ! しぃらんくぅ!」
小さな体がエイトを押しのけ鏡の前に立つ――
「うわぁぁぁん! おれさままだ幼女のまま、てかおれさまちっちゃくなってるぅ!」
鏡に映るパメラから出てる光は、パメラ本人の姿とBランク冒険者シックの姿――二つの大きさはほぼ同程度――二つの心は幼女パメラの身体で同じレベルの主導権を持っていることになる――
「いやだぁ~~おれさまこのままじゃパメラちゃまになっちゃう~~~~~!」
子供のように……実際子供の身体だが、泣きじゃくる――おそらくシック――
他の入れ替わりを起こしている人々も同じように、だんだん小さくなって自覚のある心が小さくなっていき、身体と同化してしまう恐れがある―――――
ポラリン♪
そんなことはお構いなしに竜魔石の力を使うイルダの身体――
「うわぁ、やだぁ!!」
精霊鏡の鏡面には、音と共に黒い波動のようなものが飛び出て、人々の身体にあたり、心を砕きながら弾き飛ばし、別の身体に押し込んでいる様子が映っている―――
カキッ!
その波動が、光でできた鱗のようなモノではじき返される場合もある。
ドラゴンの血に触れたことがある者たちだ―――――
しかし、その光の鱗による防御も、人によって強弱があり、破壊されてしまう者が出てきてしまう!!
「うわあああ、あたしギルドの受付嬢さんになってるぅ」
受付嬢・ドロテアの中身は言葉遣いからして貴族令嬢のパメラ、だろう――彼女は父・ジェイソル子爵の身体に閉じ込められた後、ドラゴンの血に触れてしまい、その身体に閉じ込められていたはずである――
「わ、わたくしが御領主様に!!」
さっきまで幼い女の子のような言動と行動だったジェイソル子爵は普通に行動しだす――中身は……わからん!!
「なぜだ!? どうしてだ!? どうして、勇者の身体がオレのモノにならない!!」
黒い波動はイルダの全身を包み、心を砕かずまっすぐハロルドの身体に向かう――が、
「アオ~~ン!!」
「“精霊よ”!!」
「はっ!!」
ルキウス、マーシャ、ハロルドは自分を守る鱗状の光に力を与え、黒い波動をはじき返す!!
何度も身体を入れ替える波動を放ち、周囲を大混乱に陥れるイルダ――の身体を使う何者か――
「次こそ、次こそオレが勇者になるんだ!!」
「いい加減にしろぉ!!」
そんなイルダの身体に突撃したエイトがその身体を押し倒す!!
ドウン!! ポラリン♪
地面に押し倒されたイルダの身体の手から竜魔石が音を立てながら落ちる――!!
「ウォオオオオオオオォォォォォン!!!!!!」
ルキウスがひときわ大きな声で吠える――!!
「うわたっ!!?」
ジャララララララ!! ガシッ!!
ルキウスの咆哮と共に多数の鎖が出現し、エイトとイルダに向かい飛んでいく!!
エイトは素早く身をかわし――――――
バシンッ!!
「魔法の鎖によるチェーンバインドだワン! この拘束魔法を破れるのはハロルド・S・アルヴァくらいだワン!! つまり、お前みたいな女では破れないワン!」
多数の魔力で作られた鎖による拘束――それにより、イルダの身体は動きが取れなくなる―――――!!
「……俺まで巻き込もうとしなかったか?」
拘束から間一髪逃れ、立ち上がったエイトが半眼で犬獣人を睨む――
「巻き込むつもりだったワン――ええと、エイト……ナニガシラ?」
「犬獣人って、いちいち人間をフルネームで呼ばなきゃいけない決まりでもあんのか?」
「吾輩たちコボルトは人間の顔の判別が難しいんだワン。だから臭いと、個人名でその存在を認識しているワン」
「あっそ……」
ルキウスの回答に興味が失せたのか、改めて地面に鎖で拘束されているイルダの身体を見下ろすエイト――
「エイト君だっけ? 大丈夫なの? 身体、乗っ取られてない?」
サリアが巨大な精霊鏡に映るエイトと現実のエイトを交互に見ながら言う――
「……まだ魔力流の中で小さなエイト君たちが踊り狂ってるね、良し――」
「壊していいか? その鏡……」
「それはダメだ――竜魔石を使って心と身体が無茶苦茶になっている人たちを戻すのにこの鏡は必要だ」
「そうね……そのためにはまず、竜魔石の魔法を解析しないと――」
ハロルドとマーシャも近くへ駆け寄ってくる――
しかし、心と体がぐちゃくちゃになってしまった町の住人たちは、その元凶と思えるイルダや竜魔石には近づきたくないのか、それとも今自分たちがどのような状況になっているのかを必死に理解しようとしているのか誰もそばにこようとはしない――
「でも……この女の身体に取りついているのは誰なんだ? 異世界、日本から来た、とか言ってたが……」
ハロルドが竜魔石を拾い上げ、マーシャ、ルキウスと共にそこに込められている黒い波動の力を解析をしようとするそばで、イルダの身体を見下ろしながらエイトとサリアが言葉を交わす――
「日本――ニホン……確か、150年前……大魔王を討伐するために呼び出された人たちの出身が……異世界にある日本って国だったはず――」
サリアが思い出したように言う。
「150年前の、大魔王討伐? それって……………まさかノムラダマス、の?」
「うん? ノムラ? 野村? 乃村? のむらをだます? のむらがだます?」
イルダの身体を使う何者かが、その言葉に反応する。
「そう、高名な予言者、ノムラダマスはその時この世界に召喚された異世界人の一人――」
「でも、俺はノムラダマスくらいしか知らないな。伝説じゃ、召喚されたのって……数十人の団体だったって言われているけど――」
「ま、その当時召喚された日本人たちの中で世間一般に名前が残ってるのは、ノムラダマスくらいのものだもんね」
サリアがゆっくりと話す――
「ノムラダマスは大魔王討伐後、各地に予言を残し、戦いから脱落して名を残すことのできなかった者たちを拾い上げて日本に帰還したという――他の者たちは……」
「そう言えば……名前を聞いたことがないな。その血を引いた子孫って奴は聞いた事があるけど」
エイトの言葉を聞いたサリアが、ゆっくりと話だす――
「ノムラダマス以外の者たちは……そもそも名前を残せるほどの功績を立てられなかったか……大魔王討伐後に、驕り昂ぶり、名を失墜させたか、そのどちらかだと、いうわ……」
「え?」
「戦いの強者だった者はその後の安穏とした平和に慣れきってしまい新たな脅威が現れた時に戦えなかった。厳しい死闘を潜り抜けた者は平和な時間に馴染めず身を持ち崩し犯罪者へとなり果てた。また、この世界のだれよりも高い知識を持っていた者は周りがそれを吸収し高めていっていることに気付けずにいて気付けば置いていかれていた……」
「……それで、誰もかれもが名を残せなかったってわけか?」
「冒険者ギルド総本山のグランドマスターのように日本人の子孫だから知ってるって人もいるけど……大抵、落伍者や犯罪者の名を口にする者なんていない――」
「うひゃ~~~~~ひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!」
その時、足元から哄笑がおこる!
「なんだそりゃなんだそりゃ!! とどのつまり、そいつらは主人公じゃなかったのだ!!」
イルダの顔を醜く歪ませ、何者かが叫ぶ――
「シュジンコウ?」
「オレは違う!! オレは主人公補正バリバリの最強チート主人公サマだ!!!」
「サイキョウチートシュジンコウ?」
訳のわからない言葉を叫び哄笑を続けるイルダの身体――
「チートって? 日本人たちが使っていた言葉で……意味は、ズルじゃなかったっけ?」
「この世界に来た時にオレは肉体交換のチートを手に入れた!! か弱き人間の身体を捨て、ドラゴンの巨体を手に入れた!!」
「………中の心が人間だったから、あのルーンドラゴンは群れからはぐれていたというわけか……」
「オレは泥だらけの山賊たちを見つけ、殲滅することにした――悪人の集団を滅ぼし続けていけば、この世界は俺に感謝することなる!! はずだ!!」
「……この地域の沼地に生息するトワレの花――グリーン・ポーションの原料になる花――沼地には多数の魔獣も生息しているため、一定量が欲しければ冒険者ギルドに大型採取クエストを出す事がたびたびあるわ」
「おいおい……まさか――沼地に採取クエストに行っていた冒険者の一団を、山賊と間違えてドラゴンの身体で襲ったのか?」
「失敗だった!! 突然現れた炎の壁に気を取られている間に、首の後ろに鋭い痛みを感じたんだ!! こりゃやばいと思って慌てて山賊たちの中にいた女の身体に避難した!! まさかドラゴンの身体がああもあっさり倒されるとはな!!」
「ちょっと! 何都合のいい事言ってんの? それってつまり、冒険者グループを山賊と間違えて攻撃した挙句、その女の身体を乗っ取ったって事でしょ!?」
「……こいつ、150年前異世界から来た日本人たちの生き残りなのか? とても150年以上生きてきたとは思えない……」
「まさか! 何者かが150年前と同じ異世界召喚を使って日本から呼び寄せたの!?」
サリアの言葉にエイトが少し押し黙る――さすがに150年の月日をこの相手から感じろってのは無理があったようだ――
「そしてオレは新たな身体を手に入れる!! 英雄となるオレにふさわしい、勇者の身体を!!」
「ゆうしゃさまぁあぶない~~!!!!!」
「あぶな~~い!!」
「どらごんがぁ!!」
「「「「「!!?」」」」」
いくつもの叫び声が響き、影が辺りを覆う!!
「何で……?」
見上げると、首と命を失ったはずのドラゴンの身体が、飛んでいる!!?
「ま~~だ、少し命があったのさ! 原始人並みの知力しかない原住民たちじゃ理解できないかもしれないが、死んでりゃ血が流れるなんてことはないんだよ!!」
ズドン!!
首を落とされ死んでいたはずのドラゴンの体が急降下し、自分自身の身体を持った5人を押しつぶそうとする!!
ジャキン!!
「くっ!!」
どうにか身をかわしたハロルド、マーシャ、ルキウス!! そこへ、鋭い爪のついたドラゴンの右腕が襲い掛かる!!
ドン! ガキ!! ドゴン!! ガラガラガラ!!
「ハロルド!!」
マーシャの悲痛な悲鳴が響く!
「おいおい。その勇者の身体はオレの物になるんだぜ! あんまり傷つけんなよ!!」
マーシャとルキウスをかばい、ドラゴンの爪の一撃で吹き飛ばされて冒険者ギルドの建物の壁に激突したハロルドに対し、イルダの身体があざ笑いながら叫ぶ!!
ドラゴンの左腕が魔法の鎖を断ち切り、イルダの身体を空中に放り投げると、切られた首の部分をその背中に融合させる!!
「ついでだ!!」
持ってきた職員の心が別人になってしまったため、放置されていたドラゴンの首を拾い上げてイルダの身体の前面に融合させる!!
「ドラゴンボディ、完全復活!!」
「グギャアアアアアア!!!!!」
ドラゴンの身体とイルダの身体――異世界人に心を奪われ支配されてしまった二つの肉体が、合体した――!!
「醜い醜い! まるでキメラ!! ――ギャグマンガのキャラクターみたいだな!!」
ドラゴンの身体と頭の間に人間の女の身体がある――ある意味滑稽なその姿を、二つの肉体を奪った何者かは正しく認識しているようだ。
「さあて、さっさとこんな身体は捨てて、勇者に転生するとしよう……」
そう言って、4つの目でキョロキョロと何かを探し始める――
「あったあった……」
ハロルドを吹き飛ばしたときに落ちた竜魔石――それをドラゴンの身体を低くすることでイルダの――人間の手で拾い上げる――
「待ちなさい!! あなた、ハロルドの身体を奪ってそれで本当に成り代われると思っているの!?」
サリアが何者かに向かって声をあげる――
「私、サリアちゃんは冒険者ギルドのランク選定員の資格があるから、私があなたに乗っ取っられたハロルドの身体にSランクの価値無しと報告すれば、勇者の称号はたちまち剝奪されるわ!」
「ああ? だったらてめえを始末すりゃあ、それでいいんだろ!?」
イルダの顔とドラゴンの顔が何者かによって醜く歪まされる――そしてそのまま鋭い爪で――
「“炎の壁よ! ファイアウォール”!!」
ゴオオオオオオオオオオ!!
突如、ドラゴンの前に巨大な炎の壁が出現する!!
「な!! こ、これは………!?」
炎の壁はとてつもなく大きくド派手で、灼熱の様相だ――とても熱くとてもその先へは行けそうにない、ように見える――……………
「あの時、オレの――ドラゴンの首が切られた時に見た炎の壁―――!?」
………ドラゴンの身体と負傷者の救護のために出ていた冒険者ギルドの面々からは、このような大魔法が使われた形跡があったという報告は、無い………
「どりゃあああああ!!」
バギッ!! ボキン!!
「あ―――――………」
相手が、炎の壁に気を取られている間に、ドラゴンとイルダの背中の融合場所を狙ってエイトが剣で攻撃する!! が、
「折れた~~!?」
すでに刃こぼれをしていてボロボロだったエイトのロングソードは、融合場所を断ち切ることができずにへし折れてしまう!!
「今の炎の壁――そして、それに気を取られていて、隙をつかれた斬撃――まさかお前――あの時オレの――ドラゴンの首を切ったのはお前だったのか!?」
「今もお前をぶった切ってやろうと思ったんだけどな! ちっ! 剣を新調できなかったのがマズかったか!!」
ガラン!!
エイトは折れた剣を投げ捨てると腰の道具入れから折り畳み式のハンドボウガンを取り出す――冒険者がメインウェポンを失った時に使うサブ武器だが、矢はそう多くはない――
「人間の部分に当てられれば、効果はありそうだ!!」
「使う?」
そんなエイトへ、サリアが自身の二振りあるサーベルの一振りを渡してくる――
「う、ああ……ええっと、ありがと! ありがたく使わしてもらう!!」
「まあ、武器は必要でしょ――エイト・ハンドレット――こけおどしのハンドレットならね――」
サリアからサーベル受け取りながら投げかけられた言葉にエイトは驚愕する――
「―――!? お前、いつ気付いた!?」
「う~~ん? こけおどし??? ど~~いう意味だ? 原住民」
サリアが言った言葉にエイトは激高し、イルダとドラゴンの身体を使う何者かは足を止めて、興味深そうにこちらを見てくる―――――
「そう、あなたはエイト・ハンドレット――あらゆる魔法がド派手に、きらびやかに仰々しい程に激しく発動するという通称・お祭り男……ザ・フィスティバルと呼ばれるムゲン・ハンドレットの兄弟で、似たような特性――魔法がど派手に発動するという冒険者――だけどその見た目に対して威力はそれほどでもないという通称・こけおどし!」
「ギャ~~ハハハハハハ!! なんだそりゃ! なんだそりゃ! さすがは原住民!! オレたちみたいなチートには遥かに程遠いが、中々に面白い物をもってるじゃねえか!!」
「う、うるさい!! それに訂正しろ!! 俺はムゲンとは従兄弟!! 兄弟じゃない!! ――そんなに言うのなら、喰らってみるか? 俺の――エイトの魔法を!!」
目が覚めた時、見えたのは見覚えのある知らない天井だった――
ここは、御領主様のお屋敷にあるメイドたちの部屋――
「リエット、あなたは大丈夫なの? 町中が大混乱に陥ってるらしいけど――」
「ええ……大丈夫です……マーサさん……」
ごく自然に先輩メイドの名前がリエットの口から出る――
今のリエットなら、御領主様の館で働く見習いメイドとして、仕事をきちんとこなせるだろう――
ローダンの事は………時間がたてば忘れられる……
仕事をしていれば、仕事を覚えていけば悲しい記憶、残念な出来事、思い出したくない全ての事情を――忘れることができるだろう――ローダンの事も、ラーズ爺さんの身体で死んでしまった本当のリエットの事も……………
かすかに残っていたリエットの心の残滓から彼女の記憶と行動は救いあげる事ができる。
意識して過ごせば、リエット本人の死を隠蔽し続けられる………
そして、門番のラーズは過去の人として忘れ去られ、リエットとして未来を生きる……………
「なんてことできるわけないじゃろ!!!!!」
――ラーズは怒りで自分を取り戻す――
「どうしてお主は死にたいなどと願ったのじゃ!?」
ラーズの心は今、リエットの心の奥底に一番近い所にいる――心の大半はラーズの身体と共に天に召されてしまったのかもしれないが、ここには確かにリエットの心がまだ残っている!!
「帰ってこなかった、救護院にいなかった、それでなぜ死んだと決めつける!?」
リエットの心からの返事はない――
「もしかしたらドラゴンに恐れをなして逃げたのかもしれん! そしてそれが恥ずかしくて町に戻ってこれないのかもしれんじゃろ!!」
それは一種の願望であり、一縷の望みでもある――
……………どちらの?
「そんなことはどうでもいいのじゃ!! さがしにいくのじゃ!! お主の愛しのローダンを!!」
その時は自分が消えても構わない――ラーズはそう決意していた――




