町に広がっていく、混乱
冒険者ギルドにドラゴンの首が持ち込まれてから、一夜明けて――
「御領主様―――――」
町の中心にある貴族領主の館――家令のラッセルが報告書を内容を領主、ジェイソル子爵に伝える――
「冒険者ギルドにドラゴンの首が持ち込まれた件、調査結果はどうだった?」
若い門番が駆け込んできた時、Aランク冒険者率いるチームが全滅し、ドラゴンの群れが迫ってきているかもしれないという話になり、館中がパニックになった――
そこで、ジェイソル子爵は家令のラッセルに私兵を使っての調査を命じた――
「町の街道に現れたドラゴンですが、それが移動してきたと思われる痕跡――足跡、はった跡、近くの森の倒された木々を見る限り、あのドラゴンは群れからはぐれた個体だったようです」
「――? 足跡? ……はった跡? ドラゴンは普通、飛ぶものだろ?」
「――いえ、激しい戦闘が行われていたのでわかりませんが、あのドラゴンは翼を損傷していたようです――戦闘中の物か、それともそれ以前かは判断がつかない、とのことですが」
先に出発していた冒険者ギルドの者たちによって助けられた数名の生存者から情報を聞き出せれば正確なことがわかるかもしれないが、彼らは今救護施設で治療中であり証言が取れるまでは時間がかかりそうだ――
「もしかしたら、翼が破れ落ちたことで、群れからはぐれた個体だったのかも――」
「ふむ」
手渡された報告書――ドラゴンの詳細、死亡者リストとそれよりかなり少ない生存者リストを机の上に投げ、ジェイソル子爵は考え込む――
「落ちたドラゴン……ならば飛んでいるわけではないし、ましてや首だけで飛ぶ、というわけはない、か――」
「と、言いますと?」
「いや、最初ドラゴンの首と聞いた時、この町に残されたというノムラダマスの予言詩を思い出してね」
「……と、いうと――ドラゴンの首が飛んできて町に呪いを振りまく魔女が現れる、というやつですか?」
「そうだ。それを勇者が倒すってやつだ――勇者と言えば王都にSランク冒険者の認定を受けた勇者がいるってクララやパメラが騒いでいたな……」
「奥様もお嬢様もそう言ったそう言った話題には敏感ですからな」
「クララなんて今回のドラゴン騒動で、死亡したAランク冒険者の代わりにそのSランク冒険者をこの町に呼ぼうって騒いでいるぞ」
「噂に高い、Sランク冒険者――勇者ハロルドを、ですか――」
「大失敗に終わった大型採取クエストも、やってくれるかな?」
今回、Aランク冒険者チームに採取依頼を出していたのはジェイソル子爵だった――が、その採取品はほとんど使い物にならなくなっていた――
「採取クエスト参加者だけでなく、付近にいた冒険者も幾名か戦いに加わったようです――町にドラゴンの首を持ち込んだエイトというCランク冒険者もその一人だったようですね」
「……決着がつきかけたところへ割り込んで手柄を独り占め――いや、それなら冒険者ギルドにそのまま自分がソロで倒したと報告するな――救援を要請している所を考えるとまともな冒険者、という事か――」
ジェイソル子爵は生存者リストの上にあったCランク冒険者エイトの資料を手に取ると、一瞬目を通しすぐに机の上に投げ出す。
「うん? この女性の冒険者は重傷ながら生き残っているのか?」
エイトの資料の下にあった生存者が女性だったので、そちらに興味が行ってしまう――
「名は……イルダ……か、見舞いにでも行ってみるか――」
「御領主様――?」
「いや、何でもない……――で、そのはぐれドラゴンの――竜種は――わかったのか?」
「ギルドに置かれていた首を手に取って手に取って確かめてきました――おそらくですが――」
ポラリン♪
「――ルーンドラゴン、かと――」
「ルーンドラゴンって、魔法を使うドラゴンっていうあの有名な!?」
「はい、そうです――体内にある竜魔石の力でドラゴンにかけられた魔法をコピーして使えるという、厄介なドラゴンです」
「ねえ、ラッセル! ルーンドラゴンに会ってみたい!! もしかして、お母さんが呼びたいって言ってる勇者ハロルド様と戦ってくれるのかな!?」
「え? あの……御領主様?」
ラッセルはジェイソル子爵の突然の変貌に面食らう――
「勇者を呼んでドラゴンと戦う!! すっごく楽しそう!!」
ジェイソル子爵はまるで子供のように目を輝かせながら身を乗り出して言ってくる――
その態度に、ラッセルは覚えがあった――
「も、もしかして……パメラお嬢様……? ですか?」
否定してほしくて、失礼を承知で聞いてみる――
「そうだよ! 他の誰に見えるの?」
「御領主様――ジェイソル子爵様、です……」
「え? お父様? なんで?」
壮年のジェイソル子爵が彼の幼い愛娘パメラのような行動をとる――その光景にめまいを覚えるラッセル――
騒動は今、正に始まったばかり――
ポラリン♪
「ここは武器の店か? 剣は置いてあるか?」
鍛冶工房を併設した武器屋は、冒険者ギルドの隣の建物だ。
店に入ったCランク冒険者のエイトは、店主らしい恰幅のいい男に声をかける――
「使っていた剣がボロボロになってしまったんで新しいのが欲しんだが……」
「エアモアデラデ!?」
店主らしい男は、エイトを見るなりわけのわからないことを言う――
「――は? なんて言った?」
言葉が理解できず、聞き返す――が、
「イニナヌザホニセンイアカチロコハヒサタウィ、アダンアチエッタニンナッソアンノカケザン!! ウリエチコアギナニアッチ!?」
早口でわけのわからない言葉で騒ぐ店主らしい男――
バタン!!
かかわると面倒と思ったエイトは慌てて店を飛び出すした!
「何なんだ今のは!? よくあんなんで商売ができるな!」
急いで店から離れるエイトと入れ違いに、長身褐色の女戦士が店に入っていく――その後、店内でまた騒動が起きているようなので、エイトは速足で冒険者ギルドに戻る――他に武器を手に入れられそうな場所を、探さなければいけない――
「まったく――今回の報酬をもらったら、どっかの腕のいい鍛冶師にオーダーメイドでもしてもらうか?」
その時、エイトの前にデカい男が立ちふさがる――
「おおう! おうおう!! お前がドラゴンの首を持ち込んだ、つ~~Cランクのエイトって野郎か!?」
なんかガラの悪い強面の冒険者が絡んできた――
「俺様はBランク冒険者のシック様だ!! 俺様にドラゴン討伐の手柄をよこせ!!」
「はぁ? 何言ってんだお前? そんなこと、できるわけがないだろ?」
慌てることなく、むしろ落ち着いているエイトは、ゆっくりとシックという男を観察する――
冒険者をやろうって人間は荒くれものが多く、こういった人間も少なくはない――かくいうエイト自身も、自分がそう言った人間だと自覚している――
そういう手合いを相手にする場合、なめられたら終わりだ!!
「冗談も休み休み言え! 俺はこれでもSランクを目指しているんだ。他人の手柄でAランクになりたいなんて奴に付き合う気はないな――」
「お前――Cランクの分際でなめた事言ってんじゃないぜ!! 将来有望なこのシック様がAランクになるためにあのドラゴンを使ってやろうというんだ!! おとなしく手柄をよこしやがれ!!」
シック――ゴツイ男がいかつい顔を怒りで染め上げる――
「言っとくが、俺様はこの町のBランク最強だ。いや、実際のところ金を積んで実績を買ったあのAランクの奴よりも実力は高いんだ!!」
「金を積んでランクを買ったAランク冒険者? ドラゴンに勇敢に立ち向かった優秀な冒険者が? 他人の手柄でAランクになろうとするBランクよりはるかに優れた冒険者だとおもうが?」
「何だとてめえ!! 流れ者のCランクごときが生意気言ってんじゃねえぞ!! いい――」
ポラリン♪
「――ざますか!? 勇者を呼ぶ事がこの町の最善手ざますわ!!」
「は?」
「今回のドラゴン騒動で町は大混乱、冒険者ギルドはAランク冒険者をはじめ多くの有望な人材を失い大幅な戦力ダウンざます!! だからこそ、勇者ざます!! 噂に聞くSランク冒険者勇者ハロルドを、すぐさまこの町に呼びつけるざます!!」
「勇者? を、呼ぶ……?」
エイトは、とてつもなく恐ろしいものでも見るかのような目で、言葉遣いの変わったシックを眺める………
「何か別の意見があるのならば、今この場でわたくしに言って欲しいざます!!」
そう言って、Bランク冒険者シックは目を開けて周りを見渡す―――――
「あ、あら? メイド長はどこへ行ったざます? というか、ここは……どこざますか?」
そう言ってキョロキョロとあたりを見渡すシック―――――
エイトの他、その時に冒険者ギルドにいた面々は、皆ざます口調で話し出したシックを恐ろしさのあまり距離をおいて遠巻きに見ている。
誰も近づこうとはしなかった――そして、誰もこの状況を理解できなかった――
その混乱は、町中に広がっていく―――――
ポラリン♪
「あん? 何で急に酔いがさめるんだ?」
確か自分は酒場でしこたま酒を飲んでいたはずである――現に、今も自分が大好きな琥珀色の酒が入った木製ジョッキを、いくつも手に持っている――
「まあいい、今日はとことん飲むって決めてんだ!!」
そう言って酒場の看板娘リンダは、本来客に提供するはずの酒を自分ののどに流し込む!!
「ちょ、ちょっとリンダちゃん! 何やってるの!?」
酒場のマスターが慌てて止めに入るが、
「うるせ~~!! 今日はドラゴン退治で死んじまったあいつへの弔いなんだ~~!!」
そう叫んでがぶがぶと酒を飲みまくるリンダ――
「はれひれはらほれ~~――……」
その酒場の隅っこで、いきなり酔いつぶれた酔客に、注意を向けるものは誰もいなかった……
ポラリン♪
「さあ、今宵もやってまいりましたダンスタイム!! 踊り子は今を時めくイラーザちゃん!!」
「「「「「うぉぉぉぉおおおお!!!!!」」」」」
劇場が大きく揺れるほどの歓声――だが、現れたのは……
「何だあのデブ?」
「いや、あの腹はただもんじゃねえ!」
「腹踊りを見せてくれ!!
軽やかな音楽に乗って踊り始める謎のデブ――いつもより客は少ないが、劇場はある程度の盛り上がりを見せた――
ポラリン♪
「痛い~~!! 痛い痛い痛い!! 痛い~~!!」
「お、おい! どうしたんだ!? いきなり!?」
「痛い~~!! 痛い痛い痛い!! 痛いよぉ~~!!」
男はいきなり子供のように泣きじゃくる女に困惑する――
「おいおい、こっちは金払ってんだぞ!! 金額分ぐらいはちゃんとサービスしてくれよ!!」
真っ昼間から何をやっているんだ……………?
ポラリン♪
ポラリン♪
ポラリン♪
ポラリン♪
ポラリン♪
・
・
・
・
・
・
「ゴライオス!!」
かん高い絶叫が冒険者ギルドに響く!!
それと同時に飛び込んできた身なりの整った可愛らしい幼い少女が飛び込んできた!!
「勇者を呼べ!! 今すぐに!!」
続いて、何人もの人間が冒険者ギルドに駆け込んでくる――その誰もかれもが、混乱していた――――――
町は、ドラゴン騒ぎで大混乱におちいっていた。
冒険者ギルドが多くの優秀な人材を失ったため、貴族の私兵が住民を落ち着かせるために動いている。
年老いた門番のラーズも、愛用している槍を杖代わりにいつもより長い時間業務に携わっていた。
交代の時間はもうとっくに過ぎていたが、代わりの人員は現れない。
貴族領主に走らせた若い門番も、まだ帰っては来ていない。
「ふう~~……………」
首が切り落されたドラゴンの巨体や、重傷の冒険者たち――残念ながら遺体となってしまった者たちが運び込まれた時は騒がしかったが、やがてそれも時間と共におちつき、さらに長い時間がたっていた……………
かつては、国一番の槍使いと言われていたラーズも老いには勝てず疲労が蓄積していく。
やがて、彼はゆっくりと目を閉じてしまう……………
ポラリン♪
「おっと、いかんいかん!!」
ついうっかり居眠りをしてしまった!
そう思い慌てて手に持っていた棒状の物を構え直す――
「おや? これは……?」
構えてみて、それが愛用の槍ではなく、掃除用の箒であることに気づいて疑問符を浮かべる。
そういえば、自分は町の門の所で門番をしていた――つまりは、町の外にいたはずなのに――なぜか今はどこかの建物の中にいる。
「なんじゃここは?」
箒を手に辺りを見渡す。
「貴族様の、お屋敷?」
自分が門番をしている町で、これほどの規模の屋敷となると、そこくらいしか思い浮かばない。
確かに、自分は門番――お貴族様に雇われた私兵の一人であるが、いつの間にこんな場所にいるのか?
「リエット! 何ボ~~っとしているの!」
ビクッ!
「―――――っ!?」
背後から声をかけられ、全身に緊張が走る――
「ちゃっちゃと掃除を終わらせるわよリエット! でないとメイド長から怒られるわよ!」
「り………りえっと………?」
声をかけてきたのは若いメイド姿の女性だ。もちろんラーズはそのメイドの名前など知らない――
そして――リエットと呼ばれたメイドの少女――その身体にラーズの精神が入り込んでいる――という事に当の本人はまだ気づけず、ラーズの精神はリエットの身体で箒片手におろおろしている。
それを見て、先輩メイドはリエットをしかりつけるのであった――




