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第8章

翌日、昼休み。

中庭のベンチの陰で、彩葉は座っていた。そして、昨日の出来事を、静かに思い出す。

すり替わった帰り道。澄華の影。煌希の言葉。

変わっている物語に違和感を覚えつつ、ここは物語の中ではない。自分も煌希も澄華もみんなが生きている世界であることを確かめる。

私はここにいてもいいの?

手のひらをみつめる。私には見える。私はここにいる。

指先が、少しだけ熱を帯びていた。鼓動が、静かに胸の奥で響いていた。昨日の言葉が、まだ心に残っていた。誰かに見られたこと。誰かに選ばれたこと。

それが、私をここに留めている。

だ完全に透明になっているわけではない。

手を握る。感触を感じられるから私はまだ、ここにいる。

そのとき――澄華が、静かに横に立った。


「……彩葉ちゃん」


その声は、柔らかくて、でも芯があった。

彩葉は顔を上げる。澄華の瞳は、まっすぐに彩葉を見ていた。


「ねぇ?あなたは――だれなの?」


その問いは、まるで鏡だった。

彩葉は、自分の名前を思い出す。朝霧彩葉。でも、それだけでは足りない気がした。

“誰かの物語の外側”にいた自分が、今、何者になろうとしているのか――その答えは、まだ見つかっていなかった。

その問いに、彩葉の心が揺れた。

澄華は、気づいている。彩葉が“物語の外側”にいたはずの存在で、今、中心に近づいていることを。

彩葉は、言葉を探した。でも、澄華は続けた。


「私ね、煌希くんと結ばれるのが“正しい”って思ってるの。それが、私の物語だから」


その言葉は、優しさに包まれていた。でも、確かな意志があった。


「あなたが誰もいい。それにあなたが悪いとも思ってない。でも、私の物語を――優先させてほしいの」


澄華の声は、柔らかかった。でも、その奥には、揺るがない意志があった。誰かを傷つけないように。でも、自分の物語を守るために。

それが、澄華の“ヒロインとしての強さ”だった。

彩葉は、立ち上がる。

ここは、澄華と煌希の物語。でも、昨日から、物語の流れが変わっている。


「……私は、ただ見ていただけだった。でも、見ているうちに、心が動いてしまった」


澄華は、少しだけ微笑んだ。

その笑顔は、きらきらしていて、でもどこか寂しげだった。


「それでも、私は――煌希くんの隣にいたい。それが、私の物語だから」


彩葉は、胸の奥が静かに痛む。澄華の言葉は、誰かを責めるものではなかった。でも、確かに“物語の中心”を守ろうとするものだった。

責めてくれたらいいのに。

あなたが邪魔だから消えて欲しいと言ってくれたら私は楽になれるのに。

ヒロインはそんなことをしない。だってそれがヒロインだから。私とは違う。

それがヒロインの魅力だから。


その日、彩葉は部屋で考える。


《澄華の問いの意味は?あなたはだれなの?

私の物語を優先してほしい。

それが正しい物語。でも、優しさの中にある確かな意志。

私は――――どうすればいい?》


目を開く。自分の手を眺める。

まだ、ここに私はいる。すべてが透明になってはいない。

存在を確かめる。

彩葉はただ、自分に正直になることを考える。

自分の色を持つことが、誰かの色を奪うことではない。そう思えたら、少しだけ前に進める気がした。

彩葉は、手のひらをそっと開いた。そこにある色は、まだ淡い。でも、確かに“自分のもの”だった。



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