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第4章

ここからは雨の独白に変わります。

もう少し続きますので、お付き合いいただけるとありがたいです

 その日から――――なぜか、煌希としょっちゅう出会うようになった。

昇降口で。図書室の前で。購買の列で。校庭の隅で。

どれも、ほんの一瞬。でも、確かに“重なって”いた。

彩葉は、最初は偶然だと思っていた。自分が彼を意識しているから、目に入るだけだと。でも、あまりにも頻繁で、あまりにも自然だった。

そして、何度目かのすれ違いのあと――煌希が、彩葉に話しかけた。


「……また会ったね」


その声は、軽くて、でもどこか嬉しそうだった。彩葉は、少しだけ笑って答えた。その笑顔は、ほんの少しだけ“ふり”ではなかった。心の奥が、静かにほどけていくような感覚。それが、怖くて、でも少しだけ嬉しかった。


「……そうですね。偶然です」


それだけの会話。でも、そこから少しずつ、言葉が増えていった。


「何読んでるの?」

「この前のライブ、見た?」

「今日、風強いね」


 他愛もない言葉。でも、彩葉の中で、何かが揺れ始めていた。

そして――ある日、ふと煌希の色を見た。鮮やかな自分とは絶対に重ならない色。

それは、澄華の色と、よく似ていた。あの色は私にはない。誰もが憧れる色。

彩葉は、息を呑んだ。

自分とは重なるはずのないその色に圧倒されてしまっただけだ。

彩葉は、目を伏せた。

自分は、物語の外側にいる。脇役で、観客で、ただ見守るだけの存在。

なのに―――煌希の色と重なる姿を想像した。それは、嬉しいことではなかった。

怖かった。

もしも、物語が逸れてしまったら。澄華の色が霞んでしまったら。自分が、誰かの色を曇らせてしまったら。

彩葉は、それだけは絶対に避けたかった。だから、透明でいようと決めていた。でも――その決意が、揺れてしまった。

 私がこの物語を歪めてしまうことが怖かった。

彩葉は、物語を思い出す。


《偶然の重なり。主人公の色に憧れるのは当然のこと。

自分は外にいたい。それなのに、重なる姿を想像してしまった。これは、物語の逸脱になるのか。それとも、別の物語の始まりか》


彩葉の髪が春の風に揺れた。彩葉は、そっと目を閉じる。“透明”でいようとした自分に、色が映り始めていた。


 体育祭。校庭は、色とりどりの歓声で満ちていた。

彩葉は、なるべく目立たない場所にいた。

テントの陰。応援団の後ろ。

誰にも気づかれないように、ただ物語を見守っていた。

そして――その瞬間が来た。

澄華が、リレーのバトンを受け取って走り出す。煌希は、ゴール付近で待っている。彩葉の知っている物語通りの展開。

澄華が、少し足をもつれさせて――転んだ。

その瞬間、煌希が駆け寄り、迷いなく、澄華を抱き上げる。

お姫様抱っこ。

体育祭の歓声が、遠くに聞こえていた。彩葉は、テントの陰に身を潜めていた。

澄華が転んで、煌希が駆け寄って――お姫様抱っこ。これが物語通りの展開。これで2人の距離がもっとぐっと近くなるはずだ。

彩葉は、胸を撫で下ろした。物語は、ちゃんと進んでいる。自分が壊してしまうのではないかと、ずっと怖かった。でも、今は予定通り。

それが、何よりの安堵だった。ほっとした。

物語は、ちゃんと進んでいる。自分が壊してしまうのではないかと思っていた。でも――その安堵は、すぐに崩れた。


「ねえ、あんた。何見てんの?」


背後から、声がした。澄華の友達だ。

煌希のファンでもあるらしい。

彩葉は、すぐに視線を逸らした。でも、彼女たちは引かなかった。


「最近、煌希くんとよく話してるよね。そんなに薄い色で本当に存在できてるの?本当に幽霊みたい」


彩葉は、言葉が出なかった。その言葉は、まるで自分の存在を否定するようだった。“透明”でいることは、誰にも迷惑をかけないためだった。でも今、それが“異質”として扱われている。守っていたはずの距離が、誰かの不快感になっていた。


「煌希くんが可哀想だから、近づかないでよ。……だいたい3年生でしょ?年下に興味なんて持たないでよ」


その言葉は、彩葉の胸に突き刺さった。“色が薄い”、“幽霊みたい” “年下”。

彩葉は、ずっと“透明”でいることで、誰にも迷惑をかけないようにしてきた。物語の外側にいることで、誰かの恋を邪魔しないようにしてきた。でも――その“透明さ”が、今や“異質”として扱われている。

彩葉は、ふと気づいた。イベントは、確かに起こっている。澄華が転び、煌希が抱き上げる。

それは、物語通りの展開。でも、確実に何かが変わっている。煌希は、彩葉に“ただの煌希”として話しかけてくる。周囲は、それを“異常”だと感じている。そして、自分の色の薄さが、誰かの目に映るようになってしまった。

彩葉は、逃げるようにその場を離れた。誰にも見られない場所へ。誰にも気づかれないように。


《体育祭。澄華が転けて、煌希が抱き上げる。イベントは予定通りに進んでる。でも、周囲の反応に変化が出てる。自分は色無しそれが他者に気づかれた。今まで誰かに気づかれることはなかったのに。物語が確実に変わっている。透明なだけでは、もう守れない》


風が吹いた。

彩葉は、目を閉じる。“好きだった物語”が、静かに形を変えていく音がした。

風が髪を揺らす。その揺れは、まるで自分の色が動き出す合図のようだった。物語の外側にいたはずの自分が、今――ほんの少しだけ、中心に近づいている気がした。




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