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第2章

 昼休み、校舎の渡り廊下。煌希は、窓の外を見ながら歩いていた。

色がないはずなのに、記憶に残る。それは、煌希にとって初めての感覚だった。いつもなら、鮮やかな色に惹かれる。でも、あの時だけは――何もないはずの空間に、確かに“誰か”がいた。


「ねえ、2年生の子なんだけど・・・色がない先輩だと思うんだ。誰か知らない?」


 何度か聞いてみた。でも、誰も知らなかった。


「そんな人いたっけ?」

「2年生って、あんまり関わらないし……」


 みんなが言うことは最もだった。色が薄い人間はあまり記憶に残らない。だから、なぜ彼女が記憶に残ったのか不思議だった。

煌希は、校舎の階段を上がった。2年生の教室の前を通る。でも、どの顔も違った。

あの色は、ない。まるで――最初から存在していなかったみたいに。

 色のない人間を探すことがこんなにも難しいことだったなんて、初めて知った。

 自分が動けば、たちまち周りに人だかりができる。だからこそ、人間を見つけるのは得意な方だったのに。色さえわかればこんなに苦労はしないのに。

 煌希は必死になって探すが、彩葉にたどり着くことはなかった。


 その頃、彩葉は中庭のベンチの陰にいた。木漏れ日の中で、澄華と煌希が話しているのを見ていた。

澄華は、笑っていた。煌希も、少し照れたように笑っていた。

彩葉の、胸が高鳴った。物語が、動いている。“いろどき”の世界が、目の前で展開している。

自分は、そこに居るだけの存在。誰にも気づかれない。それでいい。それがいい。

でも――煌希の視線が、ふと遠くを探すように揺れた。

彩葉は、そっと身を隠した。見つからないように。見つかってはいけない。

煌希は、もう一度振り返った。でも、そこには誰もいなかった。まるで、“物語の外”にいる人を探しているみたいだった。

 彩葉は、静かに笑った――自分は、見ている人。でも、見つからない人。それでいい。そう思っていた。でも、ほんの少しだけ――見つかってしまいたいと思う瞬間がある。

それは、煌希の視線が遠くを探すたびに、胸の奥で静かに波打つ。だけど、見つからない方が正しいことを彩葉は知っている。脇役の役割を。それが、彩葉の居場所であることを。


 春が、また来た。彩葉は、中庭のベンチの陰にいた。去年と同じ場所。でも、心の中は、少しだけ違っていた。

彩葉は、1年間、ずっと“見守る人”であり続けた。それが、自分の役割だと思っていた。でも、煌希の視線が揺れるたびに、“物語の外側”にいる自分が、ほんの少しだけ、色を持ち始めている気がした。

1年間、ずっと見守っていた。彩葉は、脇役としての自分に満足していた。

物語が、原作通りに進んでいくことが、何より嬉しかった。

 煌希と澄華は、自然に仲良くなっていった。委員会、クラス、文化祭。ふたりの距離は、少しずつ縮まっていった。

でも――煌希は、ずっと探していた。

あの“淡い色”を。すれ違っただけの、名前も知らない少女を。

彼女の色は、誰にも見えないはずだった。でも、煌希だけは――その“無色”の中に、何かを見た。それが何なのかは、まだ分からない。でも、確かに心に残っている。

だから、彼は探し続けていた。



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