第23章
夕暮れの街。校門を抜けた彩葉と煌希は、並んで歩いていた。
空は、彩葉の色と同じように澄んだ青から、少しずつ夜の気配を含み始めていた。風が頬を撫で、制服の裾が静かに揺れていた。
途中で、澄華の姿が見えた。最近ずっと一緒にいる男子学生と並んで歩いていた。その笑顔は、幸せそうで、楽しそうだった。彼は澄華の幼なじみ――物語の中では、ほんの脇役。悩んでいる澄華に助言を与えるだけの存在として描かれていた。彼の色は澄華よりも薄く、塗りつぶされてしまいそうだった。それなのに、澄華の隣で、あんなにも自然に笑っていた。
そういうことだ。澄華も、両親と同じように――誰かを包み込むことができる存在なのだ。それが、ヒロインだと改めて思う。でも、彩葉はもう“誰かの物語”に憧れるだけの存在ではない。自分の色を持って、自分の人生を選ぶ存在になった。
だから、彩葉も覚悟を決めた。
「あのね…、私あなたのことが好きみたい」
煌希は、少しおどけたように笑った。
「知ってるよ。好きなんでしょ?アイドル」
彩葉も笑った。
「うん。もちろんアイドルとしての君は好き。でも、神崎煌希としての君も好き」
煌希は、静かに頷いた。
「うん。ありがとう」
その言葉のあと、彩葉は煌希に抱きしめられた。胸の奥が、少しくすぐったかった。
でも、それは心地よい感覚だった。
なぜ好きになったのか。理由は、もうわかっている。初めて彼を見た日から、憧れていた。
煌希の鮮やかな色がうらやましかった。
煌希は、彩葉の無色に興味を持った。
それが、二人の始まりだった。
「あー、緊張してたんだ。オーディションの時よりずっと緊張した」
「そんなに?」
「うん。だって、俺の色ってみんなよりきれいって言われてたから、そんなに緊張したことないんだ」
「なにそれ?自慢?」
「自慢じゃないよ。事実だよ」
そんな言い争いも、今は楽しく感じる。これが、“一緒にいる”ということなのかもしれない。
彩葉は、少しだけ笑った。
「ねえ、これからどうする?」
煌希の問いに、彩葉は少しだけ考えてから答えた。
「まだわからない。でも……私、自分で決めてみたい。誰かの物語じゃなくて、自分の人生を」
煌希は、まっすぐに頷いた。
「じゃあ、ぼくはその隣にいるよ。君の色がどんなふうに変わっても、ちゃんと見てるから」
彩葉は、少し照れながらも、まっすぐ煌希を見つめた。
「ありがとう。私、もう迷わない。だって、今の私はちゃんとここにいるから」
風が吹き抜ける。二人の影が、夕暮れの道に並んで伸びていた。
彩葉は、そっと歩き出した。煌希も、その隣に並んで歩き始めた。
それが、始まりだった。
彩葉の色は、もう誰かの影ではなく――自分自身の光として、誰かと重なることを選んだ。
二人は、静かに、確かに、未来へと歩き出した。その歩みは、ゆっくりで、でも迷いのないものだった。
空は、澄んだ青から夜の深さへと移ろいながら、彩葉の色を、静かに見守っていた。
誤字等ありましたら報告お願いします
感想いただけるとうれしいです




